このレビューはネタバレを含みます
『花束みたいな恋をした』からサブカルアイコンを削除。そして恋愛における心情機微をより誠実に、つまりはダメな部分もより解像度高く描いたらこうなるんだと思う。
ほぼヒモ状態の元バンドマン太賀さんと、その生活および音楽活動を支えるために売春すらしてしまっている臼田あさみさんのカップル。2人を結びつけたのがそもそも音楽だったので、臼田さんは太賀さんの夢を応援し続けるがそのための売春の事実を知った太賀さんは、音楽そっちのけでバイト三昧となる。
そんなときに昔の男オダギリさんがあらわれ、臼田さんはメロメロに。でも太賀さんとは別れられない。なんでかは知らん。友人との恋愛トークでは「太賀さんから振ってくれればいいのに」とか言ってた。これは多分、罪悪感か?となんとなくはわかる。
バイト後の早朝に帰宅し、臼田さんとオダギリさんが家で一緒にいる場面を見ても淡々と身支度をしている太賀さんのトーンで、このカップルが完全に終わってることが伝わる。なぜか寂しい気持ちになる。冷静に見るとまったく推せないカップルなのに。このシーンがとってもよかった。
太賀さんから切り出すかたちで正式にお別れする。臼田さんは泣き崩れる。振って欲しいと言っていたのに。その後再会し、付き合ってたときは一度も聴かせてもらえなかった太賀さんの曲を聴いて自然と涙が溢れる臼田さん。どういう感情かまでは正直わからない、でも涙が出てしまうセンチメンタルはすごく伝わるからなんだかきゅーってなる。
臼田さんはずっと「わたし何やってるんだろう?」とぼやいている。たしかに淡々と矛盾だらけだ。今作はそこがよい。フィクションでの恋愛って説明がついてしまうものばかりだが、現実に目を向けると行動自体が意味不明だったりするものも多い。そんな恋愛でも終わるとなったら寂しいものだったりするし、それでいいと思う。
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清水くるみさん。抜群に上手かったです。太賀さんとオダギリさんで揺れる臼田さんに「どっちをとってもダメ。どっちかを選んだらもう片方は気持ちから消えない」的な文字にすると当たり前なことを言うんですが、なんかとってもそれっぽく聞こえたんですよね。