このレビューはネタバレを含みます
あおり文句では「なぜアズミ・ハルコが消えたのか?」となっているが、それ自体の理由はシンプルで、単純に生活に行き詰まりを感じたからだと思う。
「"認知症の祖母vsそれに憔悴キレ気味の母vs無関心の父"という環境の実家住まい」「セクハラしか鳴ってない薄給の職場」「逃げ場と思っていた男は絶賛浮気中」のトリプルパンチはあまりにもしんどい。
今作が難解になっているのは2つの要素のせい。
1つ目、失踪前後の時系列をごちゃまぜにしている理由については「失踪すら勝手な憶測により消費されてしまう」という、失踪後に発生する不条理もアズミハルコ日常の鬱屈と並列に描くことで、八方塞がり感をより強調する狙いがあったのだと解釈。
SNSの書き込み表現や、テーマパーク再生のアイコンとしてたくさんの行方不明女性写真のグラフィックを活用するアイデアなどがその具体例。
そして2つ目の女子高生暴行集団。作中では、37歳の山田真歩さんも27歳の蒼井優さんも20歳の高畑充希さんも、加害的な男の性欲からババア呼ばわりされるシーンがある。そこへのアンチテーゼなのは間違いないと思う。ラストの疾走シーンなんて、よく見ると制服を着たおばあちゃんも混ざっていたりしており、若さを求めるみっともない男たちへの反抗の象徴とみてよさそうだ。
男に失望し「死にたい」と嘆く高畑充希さんに「最高の復讐は幸せになること」と説くアズミハルコこと蒼井優さん。ラストは赤ちゃんを抱いて爽やかに笑う。
行方不明だけど、皆さんが言うように死んでも監禁もされてませんけど。閉塞的な状況から逃げただけ、ていうか逃げることくらいさせてくれよ。まあ、おかげで子もできたよ。年齢を気にする螺旋から降りますね、幸せだもん。そんな感じ。
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松居大悟監督、今回はまさかの考察系。
いまのところ観る作品全部の毛色がちがっていて、まるで森田芳光監督のような印象。
とっつきづらい今作を観れるものにしてるのはゴージャスな映像とエッジの効いた演出で完全に監督の手腕。
同世代でそんな監督がいるのは嬉しい。