金宮さん

シン・ゴジラ:オルソの金宮さんのレビュー・感想・評価

シン・ゴジラ:オルソ(2023年製作の映画)
4.9
『シン・ゴジラ』のモノクロ版。
オリジナル版はもはや何度観たかわかんないですが、相変わらず涙が出る。

「会議がないと進めない。文書主義の弊害だよ」

「米国は大統領が決める。あなたの国は誰が決めるの?」

「次のリーダーがすぐに決まるのが、日本の長所だということがよーくわかった」

最後の長谷川さんの台詞は皮肉とも受け取れますが、言葉どおりの本音と受け取っても良いんじゃないかなと思ってます。

ゴジラを単なる怪獣ではなく人災天災あらゆる困難のメタファーと捉え、日本人がどのように立ち向かうかシミュレートする。解決するのは超絶的なリーダーシップでもスーパーハッカーでも凄腕パイロットでもない「集団の力」。

そして自嘲気味に語られることも多い、日本の「役所体制」「マニュアル・文書主義」は逆に言うと対応プロセスの共有を自然と醸成しており、たとえリーダーが退場しても即時に次が現れることが可能となる。

斎藤工さん、小出恵介さん、ピエール瀧さん、KREVAさん、片桐はいりさん。数秒しか出番がないけれど、自分にできることで必死にもがく人物たちに、豪華キャストを割り当てていることが、「あまねく誰もが何者かである」という姿勢を端的に示しています。

序盤シークエンスを老害的保守政治へのブラックジョークと見る節もありますが、それは上澄みでしかない。自衛隊の防衛出動の議論では、柄本明さんも余貴美子さんも明確に意思表示をしていました。大杉漣さんもリーダーとして覚醒します。

石原さとみさんの英語がひどいとかはどうでもいいんです、ドメスティックな作品なのだから。

ナショナリズムは好みでないですが、たまにはこんな作品があってもいい。街宣車も国旗もいらない、日本という国と日本人のとてもスマートな肯定です。

ーーーーーーーーーー

オリジナル版を劇場で観た際は、熱線で東京が破壊されるシーンになんともいえない怖さを感じた記憶があります。多分、がっつり職場ビルが映ってたから。

というわけで、身に迫る現実感も今作の魅力とするならば実はモノクロ化は蛇足かなと思いました。

でもゴジラの怖さは白黒にすると倍増するのは事実です。蒲田くんの初登場とかキモコワすぎる。

ーーーーーーーーーー

メッセージも素晴らしい一方、エンタメレベルもカンストしており本当に隙がない作品。

『ラブ&ポップ』で練習したのでしょう。カメラの視覚主体が事務用品からとなり、焦る人々を客観的被写体にする手法。それを細かすぎるカット割のなかに交えるなどの工夫により臨場感が高まります。

ヤシオリ作戦を松尾諭さんが総理に進言するシーンあたりから、なんかの蓋がガバガバになったのか、明言があふれて止まらなくなる。

「自国の利益のため他国に犠牲を強いるのは覇道です→我が国では仁徳による王道を行くべきということか」
「礼はいりません。仕事ですから」
「あとは頼む→おう、幹事長なら任せとけ」

うん、國村隼さん松尾論さんがいいとこ持ってってるね!

ーーーーーーーーー

完全に私事なんですが、ヤシオリ作戦でゴジラをひざまずかせるビルの倒壊攻撃。その中の一棟のビルが自分が働いている会社が開発したものだったのが胸熱でした。

私じゃなくて会社が、もっというと別の部署がやった成果なんですが、それこそ間接的にそのビルの完成には関わっているわけであり。全くもってビル本来の使い方ではないんですけどね。

自分の場合は直接的なモチーフで感じることはできましたが、要は働いている人全ての成果があのヤシオリ作戦と見ることだって大袈裟ではないと思います。

ーーーーーーーーー

米粒写経の居島一平さんが『ゴジラ -1.0』の評価として、「なんでもない人々が集団の力で戦うというメッセージが素晴らしかった。その対比として、シンゴジラの場合はやっぱりどうしても巨災対、天才メンバーの個で戦っていたから」と私と正反対の解釈をされていました。

確かにそう見ることもできます。でも好きに捉えていいですよね。なんなら求めてるメッセージは同じだったんだから、そこが嬉しい。
金宮さん

金宮さん