金宮さん

子供はわかってあげないの金宮さんのレビュー・感想・評価

子供はわかってあげない(2020年製作の映画)
4.0
両親の離婚により幼い頃に生き別れた父。父はなんと新興宗教の教祖をやっているらしい。興味を惹かれた娘、上白石萌歌さんは母や継父にだまって父親に会いに行く。

正直、途中までどう見ていいのかわからないテンション。「薮からスティック」「OK牧場」など古臭いナンセンスギャグだったり、「かたじけない」的な古風ワードを女子高生に言わせてみたり。というかそもそも頻出するよくわからんアニメや新興宗教という設定も。よくない時の三木聡監督風味から、沖田監督らしくなさを感じてしまっておりました。多分、原作のせいだと思いながら。

ところが、怪しい実父トヨエツさんが出てきてからが真骨頂。とっても良かった。実父の家を突然訪れる娘、意外にも実父の最初の反応はクールなもの。そっか、教祖だもんねと我々と萌歌さんは思います。

最初はなんなら日帰りするくらいのつもりだった萌歌さん。でもなんとなく、ずるずる3泊ぐらいしちゃう。そうすると段々と右肩上がっていくトヨエツさんの嬉しそうっぷりがとても心をくすぐるのです。

「相手の考えてることはなんでもわかる」という特殊能力で教祖となったはずなのに、「嫌いな食べ物は?」「好きな食べ物は?」「テレビ観ないのか?」「なんの番組が好きなの?」とシンプル質問攻めに警戒心が溶けちゃう。

他にも色んなアプローチでそのはしゃぎ様を表現してくれるのですが、特にお気に入りだったのが「今日の夜は何を食べようか?」とお昼ご飯中に言うやつ。また質問してきた!もう一緒にいれる喜びにあふれすぎ!!というか自分も帰省したとき親に言われたことあるかも。。なんだかきゅっとなりました。

こんな態度に「かわいそうだから」と思ってしまい滞在を延ばす萌歌さん。これがめーーっっちゃ良い子なので、じわじわと、でも素直に実父との距離を縮めてくれます。トヨエツさんよかったねえ。多分、前述のナンセンス演出もこのあたりをあまりウエットにしすぎないためだったのかなあと思ってます。それがなきゃ多分ずっと泣いてたかもしれない。

明確に離婚原因がわからないぶん、素直にお父さんよかったねと思っていいのか最後まで逡巡してました。でも、ラスト近く結局バレちゃった娘に母から「また会いに行っていいよ」と言ってもらえたシーンにより、「トヨエツお父さんに感情移入しても大丈夫だよ」と言ってもらえた気分になりました。さすが沖田監督、抜かりがないっす。

ーーーーーーーーー

・一応、恋愛パートもあり物語はその成就で幕を閉じるんですが正直まったくいらなかったかもしれないです。特に邪魔でもないんですが、その方がスリム化したのかも、、

・理想の継父を古舘寛治さんが演じられてるんですが、ドラマ『滅相も無い』の真正面クズ男を見たばかりだったので何かしでかすんじゃかいかハラハラしてました。沖田監督の作品なのでそんな裏切りはございませんでしたが。でもさー、古舘さんってそもそも普通の良い人ってやったことあったっけ??と言い訳したい。

・文壇の天才、高橋源一郎さんに古本屋の店主をやらせるなんて最高です。何気に演技うまかったんですが、演じてる姿を見たのは『つぐみ』以来。なんで出てくれたんでしょうか?馬券を買うお金が無くなったからかな?

・全体的にウエットになっていないのは今作最大の魅力のひとつで、すこしとぼけた劇伴の効果もありました。門司くんが駆け出すところなんて明確に「ラブストーリーは突然に」に寄せててふざけてるなーと思ってたら、おしゃれエレクトロ代表agraphの牛尾さんが音楽担当とのこと。こんなふざけた(いい意味で)こともできるんですね。
金宮さん

金宮さん