浄土

THE BATMAN-ザ・バットマンーの浄土のレビュー・感想・評価

4.1
バットマン二年生のブルース・ウェイン君、兎にも角にも陰気過ぎる。こんなに非社交的でノブレス・オブリージュに後ろ足で砂かけるような金持ちのスーパーヒーローがいてたまるかと思う反面、オーバーキル上等で復讐鬼の部分が肥大化した男を見るのは単純に気持ちがよいというのは正直あった。否定的に語れる部分はいくらでも挙げられるんだけど、この作品と新米ビジランテの醸し出す青二才のヴァイブスはどうしたって嫌いになれない。というかあいつ童貞じゃないの?絶対童貞だよ。ふはは、ブルース・ウェインに勝ったで(引きつった笑顔で)。

かつてのダークナイトトリロジーやそれ以前のバットマンシリーズにおけるブルース・ウェインの軽妙洒脱さはどこへやら、社会不適合者が夜な夜なコウモリの仮装して自警活動に勤しんでるんだから本当にただの変質者としか言いようがない。実家の地下室で有能ボディガードの妄想してた『アイ,トーニャ』のアイツと根本は変わらないんじゃないかとすら思う。

そんな狂人の側面がブーストされた本作、特にオープニングは出色の出来栄えだった。黒背景に赤字のバカデカタイトルバック!冒頭から夜も夜、もう真っっっ暗。そんな夜空に浮かぶバットシグナルを目にして戦々恐々とする犯罪者の皆さんの図。これは正義の味方云々ではなく「コウモリ姿のやべーやつ」として拳で語る30歳のお話ですよ、という絵面の説得力でもうヤラれてしまったし、その後も真っ黒な不穏さと真っ赤な怒りの持つ絶対温度は揺るがず最後まで徹底していた。敵は勿論のこと、アルフレッドさえも若干ヒイてる感じがなんともソワソワして楽しい。徹頭徹尾ダークにやるって決めたら、やる!という作り手の覚悟を垣間見た気がする。ラストに向けてフラストレーションを貯めに貯めるという戦略は些かリスキーではあるものの、ある意味『デス・プルーフ』なんかと同じ構造ではないのかと思ったり。

そんなわけで「長いな」とは感じたが別段退屈にもならず終いだった。いや、冗長に感じたシーンは結構あったのだが、自分の中で正常化バイアスが勝手にかかっていたのかもしれない。単純に贔屓目で見ていたのか?そのへんは本作の謎解き以上にミステリー。少なくとも『ジョーカー』は作り手の冷めた客観的視点が感じられてしまいイマイチ乗り切れなかったのだが、今回はそういうこともなくマット・リーブスの胆力に魅せられたことをここに強く念押ししておく。いつも心にvengenceを。
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