manami

荒野にてのmanamiのレビュー・感想・評価

荒野にて(2017年製作の映画)
-
アンドリューヘイ監督作品、初鑑賞。
12歳だった息子をほったらかして彼女との旅行に行ってしまうようなダメ親父だけど、チャーリーがあんなに屈託なく接してるってことは、女にだらしないこと以外は良い父親だったのか。だとしても虐待だとしか思えないけどな。
学校だって、本当になんとかならなかった?無知そして無関心ゆえの放置だったんじゃないだろうか。教育の機会も、そこから得られるはずだった様々な人々との出会いも経験も奪われたことにより、チャーリーの思考回路はかなり短絡的で、15歳らしからぬ大胆さとはチグハグな印象を受ける。行き当たりばったりな職探しといい、貧困の連鎖の影響が色濃く出ていると感じる。
もともとの性格が素直なので「健気な良い子」に見えるが、チャーリーのやっていることはそこらのギャングとたいして変わらない。彼を純粋な被害者と見ることは、私にはできない。彼に盗まれ奪われ侵入され殴られ、損害を被った人々こそがそれに当たるだろう。
ただ、この環境にいる少年を悪と断罪することもまた難しい。彼もまた、制度の隙間から溢れ落ちた弱者であることは間違いないからだ。初めての競馬を間近で見てはしゃいだり、父親の帽子を被って旅立ったりする姿には、子どもらしい可愛らしさと意地らしさがもちろんある。
そして彼は、騎手のボニー曰く「競走馬は速くなきゃ競走馬じゃないの」という世界で生きるリーンオンピートに、自分自身を重ね合わせる。怯えるピートに言い聞かせる「怖がるな」「落ち着け」は、自らへの言葉でもあるのだろう。さらには父親、家族、友人などの役割も同時に求めている。
仕事で病院を離れるあたりからずっと、「〇〇しないで」「〇〇にならないで」と願う方にどんどん転がっていってしまう。ラストも、あの時点での最善ではあったのかもしれないが、道中での問題が何も解決されていないというモヤモヤが頭が離れない。これから成長するにつれ彼が抱くであろう(あるいは、抱くべき)罪悪感を想像すると、どうにもいたたまれない気持ちの方が勝ってしまう。
というわけで、これを「良い話」として感動することはできないけど、いろいろ考えさせられる「良い作品」ではある。

50(49は『さよならの朝に約束の花をかざろう』)(1759)
manami

manami