KnightsofOdessa

ワンダーストラックのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

ワンダーストラック(2017年製作の映画)
3.0
[たった一言で映画全部がぶち壊し] 60点

昨年のカンヌ映画祭でコンペ部門に選ばれた作品のほとんどを日本公開する珍しい年らしいので、今年くらいカンヌに染まってみようと鑑賞。たった一言が映画をぶち壊しうるということを思い知った。うぬぅ…感動的な映画だったのに残念だよ。

1927年に暮らす聾唖の少女が憧れの女優を探してニューヨークに出てくる話と1977年に暮らす少年がまだ知らない父親を捜してニューヨークに出てくる話を大胆なカッティングで描き出した作品。1927年篇の少女ローズは先天的な聾唖であり、彼女の眼を通して描く世界を白黒サイレント映画として描いているという世界観が素晴らしい。また、1927年というのはサイレント映画が最後の輝きを放っていた年であり、聾唖のローズにとっては“映画”という芸術が自分から離れていくような感覚がなんとも切ない。1977年篇の少年ベンは事故で聾唖になり、音のぼやける一人称視点とクリアな三人称視点を巧みに利用して音のない世界と音のある世界を表現していた。また、人間は耳が聴こえなくなると、自分で聴こえるくらいの声で話すことが知られているので、博物館の中で大声を発するシーンなんかは非常にリアルだった。

その後、二つの物語は特にひねりもなく交差するのだが、最後の最後で決定的なミスをやらかしてしまう。それは、成長したローズがベンに対して一言だけ言葉を発するのだ。ここまでの対比が素晴らしかった分、聾唖のローズが聾唖のベンに対して言葉を発する必要性が皆無なのだ。こうなると、気にならなかった部分にも目がいってしまい、全体的な評価が下がってしまった。

となると、見る価値はないのか。そういうことではない。指摘した以外の部分は見応え十分であり、これを見れば夜の博物館に忍び込みたくなること間違いなしだ。偶然にも舞台となるのは「ナイト・ミュージアム」で舞台となったアメリカ自然史博物館なので、予習がてらそっちを見てもいいかもしれない。
KnightsofOdessa

KnightsofOdessa