春とヒコーキ土岡哲朗

鉄コン筋クリートの春とヒコーキ土岡哲朗のネタバレレビュー・内容・結末

鉄コン筋クリート(2006年製作の映画)
-

このレビューはネタバレを含みます

勧善懲悪ではなく、心の中の光と闇は共存するもの。

クロはシロのお守りをしているが、シロの存在によって理性を保っていてところが大きく、シロを奪われたクロは狂気を剥き出しにして暴れていく。そして、闇に染まる部分とそれを抑えたい部分の迷いによって、“イタチ”が現われる。闇に浸った時の強さで誘惑するイタチだが、クロは、シロの純粋さによって明るさを保つことを望んだ。

シロは、とにかく無邪気で、汚れのない存在である。疑うという気持ちが薄いため、危機察知能力が無い部分を、クロのによって補われている。戦いで不安になった時に、夢に対する幸福感に逃げ、理性がなくなり、狂気に飲み込まれてしまう。

ネズミが、くたびれたヤクザ。凶暴な身分ではあるが、ネズミなりの町の愛し方があり、蛇によって壊された町が元に戻せないとあきらめたネズミは、裏切った部下・木村にすんなりと殺される。「いつから(裏切りに)気づいてたんですか?」と問われ、「生まれた時から(死ぬことは決まっている)。誕生こそ消滅の始まりなのだよ」と静かにおどけてみせる。満月を見上げて「死ぬには良い日だ」と言って、木村に自分を殺すための手ほどきをして、恨むことなく死んでいく。このクズを全うした感じ、カッコ良すぎる。

町を、クロも蛇も「おれの町」「私の町」と呼ぶわけだが、町を守っているつもりのクロが、じぃちゃから「その言い方やめろ」と言われるのはなぜか。町に変わって欲しくないという気持ちが強すぎて、苦しむことになると分かっていたからだろう。
松本大洋は、「シン・シティ」のフランク・ミラーの影響も大きく受けているそうなので、町を舞台に暴力的な正義が、ゴミなりの平和を願う精神が共通していると思う。