イチロヲ

わびしゃびのイチロヲのレビュー・感想・評価

わびしゃび(1988年製作の映画)
3.5
8ミリのビデオカメラを手にした井口昇少年が、密かに恋い慕っている高校の後輩女子に会いに行く。後にプロの映画監督となる井口昇が、8ミリフィルムで撮り残しているセルフ・ドキュメンタリー。

井口少年は学生時代に刻まれた劣等性により、カメラのファインダー越しでないと異性相手に自己主張できない性質になっている。そこを「気持ち悪い」と受け止めるか、「純愛」と受け止めるかは個人の自由だが、筆者は後者のほうで受け止められる。

「その人のことが好きだからこそ、目を合わせられない、手を握ることすらできない」という感情こそが真の純愛。ファインダー越しでないと女子に接近することのできない井口少年が、叶わぬ恋と対峙して、見事玉砕するまでの姿を自ら映像に収めている。

二十歳前の少年の、暗中模索、優柔不断、獅子奮迅とした言動が非常に生々しく、胸が張り裂けそうになる。その「時代」の青臭さが凝縮されている、奇跡の記録映像作品。井口監督の作家性の原点を垣間見ることができる。
イチロヲ

イチロヲ