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偉大なるマルグリットのstanleyk2001のレビュー・感想・評価

偉大なるマルグリット(2015年製作の映画)
3.5
『偉大なるマルグリット』Marguerite 2015

実在の人物をモデルにしたコメディ。フランス版『寝床』

モデルはアメリカのアマチュア・オペラ歌手フローレンス・フォスター・ジェンキンス。

「彼女の演奏したレコードを聴くと、ジェンキンスは音程とリズムに関する感性がほとんどなく、極めて限られた声域しか持たず、一音たりとも持続的に発声できないこと、伴奏者が彼女の歌うテンポの変化と拍節の間違いを補って追随しているのがわかる。」(wikipedia)
父の遺産を手にしたジェンキンスは友人達を招いてリサイタルを開き最後にカーネギーホールでコンサートを開催してその1カ月後に亡くなった。

映画の舞台は第一次世界大戦後のフランス。資産家の箱入り娘マルグリットは夫に男爵の爵位を買ってあげた。資産家の妻に夫は言いたい事を言えない立場にある。

苦労を知らずスクスク育ったマルグリットの楽しみは歌。オペラを歌うのが最大の楽しみ。しかし彼女は救い難い音痴だった。

マルグリットは所属する慈善団体のチャリティ音楽会で若手歌手を前座にしてトリを務める。聴衆の中にはマルグリットが歌い始めると隣の部屋に避難する者もいる。

慈善のためだと聴衆は真面目な顔で聞いてあげている。

その中に笑いを堪えられない若者が一人。パリの新聞に勤める彼は実はアナーキスト。自分が書いた風刺劇に何も知らないマルグリットを出演させて調子ハズレのラ・マルセイエーズを歌わせる。

国歌を冒涜した罪でマルグリットは一晩警察の厄介になるが自分が笑いものになったことに気がついていない。

パリ・オペラ座を貸し切りリサイタルを開きたいという途方もない野望を抱く。

オペラ座の支配人は「良いよ。観客のサクラを何人用意すれば良いかね?みんな雇ってるぞ」と言う。本物の歌手がサクラを雇うなら音痴のアマチュア歌手が義理で観にくる慣習を動員するのも五十歩百歩だ。

落ち目のオペラ歌手を専属教師に雇って必死に猛練習。

マルグリットの人前で歌うという夢を継続させているのは執事のマデルボスの力が大きい。アマチュア写真家であるマデンボスはいろんな衣装を身にまとったマルグリットの撮影に熱中する。コスプレイヤーとカメラマンの関係みたい。マデルボスは「ヒロインの最期を撮影したい」と物騒な願いを口にする。

さてマルグリットのリサイタルは実現するのか、、

『寝床』の旦那は誰も自分の義太夫を聞きに来ないと聞いて激怒して長家の住民を退去させると言う。旦那は自分の義太夫が下手な事を自覚しているけど誰も聞きに来ないと強制退去という権力を使う。

『寝床』の聴衆は最後までイヤイヤ聴きに来るのだがマルグリットの周囲の人々は彼女の夢を壊したくなくてリサイタルをやめさせようとはしないで実現に努力する。フランス人も人情味があるね。

マルグリットは「どこそこのお嬢さんがシャンゼリゼに店を出したのよ」と夫に語りかけるが夫は聞き流すだけ。マルグリットの歌への渇望は家庭から飛び出して自己実現したいという願いでもあるのかも。

マルグリットにも周りの人達にもやれやれと苦笑しながら見捨てられない愛着を抱いている自分がいる。「人間は愚かなのさ。俺もアンタも。そうだろう?」と監督が目配せをしてる。
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