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火葬人のbennoのレビュー・感想・評価

火葬人(1968年製作の映画)
3.9
監督はユライ・ヘルツ…チェコスロバキア・ヌーヴェル・ヴァーグのひとりです…。

ゾンビより、スプラッターより怖い!! …それが…アタオカな人!! …主人公が兎に角狂っていて気持ち悪い…原作はグロテスクの作風で知られるラジスラフ・フクス…。

チェコ作品は70年代以降はゴスロリやロリータ、アニメーションなど独特な作品が多いですが…60年代は未だナチス・ドイツを背景にした作品が多いです…しかしその表現もやはり一風変わっていました…。

タイトルバックではヤン・シュヴァンクマイエル風に人間の顔が半分に割れたり、ボディパーツが積み重なる映像でインパクト大…そして冒頭では動物や人間の超超クロースアップ…ここからすでに不気味感満載です…。

舞台はナチスの影が迫るチェコ、プラハ…1930年代末のお話です…。

火葬場で働く主人公カレル(ルドルフ・フルシンスキー)…彼は家族思いで仕事熱心…。

しかし彼は『チベットの死者の書』に傾倒…輪廻転生を信じています…クリスマスイブの食卓、チェコでは定番の鯉の料理を前に「前世は猫だったかもしれない鯉をいただこう」… 恐怖を超えてギャグ…。

そしてカレルはかつての戦友に感化され残忍なファシスト思想に操られていくのです…お葬式のスピーチではまるでヒトラーのような演説…。

今まで愛国的だった男が国家を裏切り…絶対悪の罪へと手を伸ばしていきます…。


物語は主人公の膨大なセリフ量のモノローグで展開…くどいくらいに自分の真面目さや家族愛を強調…語り口もキモさが耳に残ります…しかし本質的には意志薄弱の下衆な男なのです…。

主人公の不気味さに加え…映像が圧倒的に面白く惹きつけます…撮影監督はチェコを代表する名手スタニスラフ・ミロタ…超広角レンズに定評があるようですが…今作ではこれでもかの超クロースアップ…魚眼を使った歪んだ映像…そして気持ち悪いほどのカット割りの多さ…狂った精神世界を映像でも堪能出来ます…エピソードの繋ぎも上手くヒッチコックの『ロープ』を思わせる場面転換…。

また、作中、気持ち悪い小道具…それが"櫛"…主人公が死者の髪を整えたその直後、必ず自分の髪を撫で付けます…っს

そして作中で使われていたヒエロニムス・ボスの絵画も摩訶不思議な不気味さを醸し出します…。

自分自身を持っていない空虚な精神性…イデオロギーを洗脳され重大な罪を犯す…そして罪の意識がなくこれが正しいと真に思う…危険思想に嵌っていく過程はどこかのカルト宗教とそっくり…他人事ではない恐怖も感じます…。

恐怖感と共に寓話風で不条理な展開…流石カフカの生まれた国…60年代チェコ作品も面白い…。
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