《トスカの接吻》のような虚実曖昧なドキュメンタリーとフィクションの融合…ダニエル・シュミット監督の真骨頂です
映し出す被写体は…
歌舞伎役者…坂東玉三郎
そして今は亡きレジェンド4人
女優…杉村春子 当時88歳
舞踏家…大野一雄 当時88歳
舞踊家…武原はん 当時92歳
芸者…蔦清小松朝じ 当時101歳
まず、冒頭で映し出されるのは大好きな演目《鷺娘(さぎむすめ)》舞台は2度観ています…個人的には嗜んでいた長唄三味線の演目でもあり、もう体の血が疼いてきちゃいます〰︎ෆ*
演目終盤の息絶えるシーンから始まり…今作ラストで圧巻の見せ場があります….是非とも必見ですෆ*
人は死が近づくと、人生で刻んだ記憶が走馬灯の如く甦ると言われますが…レジェンドたちのほんのわずかな一瞬の断片さえも…その所作、動きのひとつひとつにこれまでの生きてきた証が感じ取れるよう…
芸は一日にして成らず
それを体現するかのように…一挙手一投足見逃せない想いです
ドーランを走らせるハケの音…お粉を叩く音
目尻に朱を入れ…紅を差し…仕上げは眉…
玉三郎さんの一連の動作がとても美しく滑らか…
フランスの構造主義の哲学者ロラン・バルトが《記号の国》で描いた日本文化についても準えていた《女形》…それは玉三郎さんも言葉を変え表現していましたが…女を《表象》するのではなく女を《意味》するのだと…
玉三郎さんの女性より女性らしいとは…常に男目線で女性をよく見て客観視する…男を意識すること
そのことに杉村さんも言及…男性だからこそ女性が気づかない細やかな女を表現できるので女形から学ぶことは多い…
成瀬巳喜男監督の《晩菊》が挿入され、その中での杉村さんのとても色香のある所作が披露…映画も是非、観てみたいです
そして何より心を奪われたのは大野一雄さんの舞い…蒼白い明け方の東京湾をバックになんて憂いのあるゆったりねっとり流れる時間…
また、違う場面では《アマポーラ》の曲をバックに艶かしく舞います…
ゴダールやロメールの作品を手掛けた名手レナート・ベルタの映像が更に美しさを引き立てます
武原はんさんがバイバイと手を振って見せたり…杉村春子さんが舞台袖に去っていく後ろ姿…また、101歳でありながら背筋をシャンと粋にお三味線を弾く朝じさん…言葉では上手く説明できないですが、皆さんの持つオーラに惹きつけられます…そして憧れます
また、玉三郎さんの劇中劇《黄昏芸者情話》でも素晴らしい映像を堪能できます…
そして何度もリピしたいほどの《鷺娘》…うっとりしすぎて溶けちゃいそう…至福の時間でしたෆ*