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長距離ランナーの孤独のbennoのレビュー・感想・評価

長距離ランナーの孤独(1962年製作の映画)
4.2
トニー・リチャードソン監督作品…初鑑賞

フランスではヌーヴェル・ヴァーグの時代…その頃イギリスでは労働階級者たちの苦難の日々、貧しい出自で将来に希望のない若者たちがもがき苦しむ時代…


若さ故の反抗的な態度に不遜な顔つきの18歳コリン(トム・コートネイ)…実際はとても青年とは思えず、ちょっぴり老けて見えますが(ジャケ写)…ただ、今作での彼の存在がとても素晴らしく印象に残ります

部屋の片隅で亡くなった父親の保険金である紙幣にマッチで火をつけるコリン…

イギリス病という経済の停滞期…働くことに意味を見出せず日々仲間と刹那の快楽…遂にはパン屋へ盗みに入ります

しかしあまりに幼すぎる失態から少年院へ…彼はそこで思いもよらぬ才能を発揮します

少年院で行われる名門私立校との長距離走の対抗戦…コリンは有力選手として特別な待遇を受けることに…また院長は彼を利用して少年院の名を揚げようと目論見ます…

そして対抗戦当日…


     𓐃𓐃𓐃𓐃𓐃𓐃𓐃𓅹𓐃𓐃𓐃𓐃𓐃𓐃𓐃


周りからは《院長のお気に入り》と揶揄され、盲目的に従う存在を見せつけながら…内側には歪んだ社会や不条理な権力への無言の反抗精神を秘めていました


孤独な練習風景の中に、少年院に入る前の無軌道なアナーキズムをコミカルな回想シーンとしてカットイン…そしてジャズの劇伴もお洒落…

実にコリンの顔がいい!! 言葉に表さず秘めたものを抱えているような表情…それでいて院長に向ける作り笑顔…一体何を考えているのか? その表情を捉えるクロースアップの多用も見事

護衛なしで外でのトレーニングを許されたコリン…広角で捉えた自然美の中を駆け抜ける解放感…

まだ月の出ている夜明け前…靄のかかる森の中を月を追い抜き…そしてやがて昇り行く朝日をも追い抜くシーン….実に美しい水墨画のシークエンス…


そしてラストに見せるコリンの確信犯的な態度と表情が忘れられません…

体は従っても…心だけは従えない!!


   I will not cease from mental fight.
     我は精神の戦いから引かぬ
       
     ー 《 Jerusalem 》ー the Anthem ー
     ー 《エルサレム》イギリスの愛国歌 ー
    
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