カトゥ

ある天文学者の恋文のカトゥのレビュー・感想・評価

ある天文学者の恋文(2016年製作の映画)
3.6
「死んだ恋人から届く手紙」という、古典的な形式ではあるが、本作ではただ手紙だけではなくて、動画やメールや宅配サービスが駆使されていて、つまり死んだ相手からの情報量が増えている辺りは現代的かつわかりやすい。
 
といっても、どうやって手紙が届くのか、なぜタイミングが合うのか、といった“謎解き”は、この映画の本筋ではない。そんなものは、中盤で完全にわかってしまう。もっと言うと、予告編でわかる。
なぜ、そんなことを死んだ相手が仕組んだのか、それを受けて主人公はどうするのか、が描かれ、そして観る側も考えることになる。
 

様々な仕掛けを駆使してまで自身の愛を残そうとすること、歳の離れた不倫、迷惑とわかっていてもつい行動してしまうこと、全て人によってはグロテスクに映るだろう。
その気持ち悪さ、受け入れ難さは、しかし人が人を好きになる素晴らしさの、コインの裏表だと僕は感じる。だからこそ、彼ら2人が終盤に達成した、ひとつの和解、小さな幸せの始まりに説得力がある。
モラルの先にある衝動が、こういう形を取ることもある。非常識かどうかは、また別の話。
 
 
しっとりと落ち着いたイタリアの風景は、ちょっと珍しい印象。霧雨と曇り空、寒々しくも美しい町並み。境遇や年齢に関係無く、愛することを尊重する人々。
 
 
映画の雰囲気と同じく、主人公2人の真摯さが心に迫る。実のところ、ストーリーを書き出すと、実にあっけないお話なのだが、それが映画のかたちになるとここまで“刺さる”のだ。
 
誰かを好きになると、その人との死別まで考えてしまう。そんな人は多いと思うし、そういう人にこそ観てもらいたい佳作。
  
自身の価値観に照らして、「共感できるかどうか」を尺度に感情移入する人には、様々な要素からして難しい映画だとは思う(そういうフィクションへの向き合い方がある、らしい)。
ただし、例え感情移入できなくとも、鑑賞後には深く考えてしまうだろう。まるで観ている側が、謎めいた手紙を受け取ったみたいに。わからない、受け入れられない何かが自身に届く。
 
 

ちなみにタイトルには「天文学者」とあるけれど、天文学あるいは天文学者的な要素は気にしなくてもいいです。ディティールだけで、逆にその方面に興味がある人はがっかりするかも(現役の天文学者はあんな事言わない…)。でも、この作品の素晴らしさには変わりありませんでした。
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