カトゥ

ゴースト・イン・ザ・シェルのカトゥのレビュー・感想・評価

3.7
悪くは無いが特別な何かを得た感じはしない、それが劇場を出た時の印象。
世界中の、というか主にアメリカと中国の「Ghost in the Shell」に魂を奪われたオタク兼映画制作者達が、リスペクトと金と技術を込めて、メジャー指向の攻殻機動隊を作ったらこんな感じになってしまった、という作品。ファンなら喜ぶ小ネタが並んではいるものの、ではそのファンは本作に満足するだろうか、とやや疑問はある。それでも映画館ならではの迫力はあった。

豪華絢爛、見ていて楽しいけれども、かつての攻殻機動隊(原作本、劇場版からアニメまで)にあった、衒学的な雰囲気がまるで足りない。
なるほど猥雑でサイバーパンクなアジアを描き出すことには、一応は成功している(でも、まるで新味は無い)。透けない立体映像が溢れる無国籍シティは見応えがあるし、3分毎に出てくる過去作のリスペクトも嬉しい。みんなニッポンセイヒンが大好きなんだね、と思わせる徹底ぶり。
VFXも抜かりないし、スピード感もある。
 
 
しかしあの、原作漫画から延々と受け継がれてきた、「つま先の位置からモブキャラのつぶやきにまで理屈がある」世界と、それをあえて説明しない(観客側に求める)姿勢、そしてなにより個々人の気持ちよりも大きな「その先の世界」への視線が足りない。
「イノセンス」の択捉島なんて、あれできちんと士郎正宗的サイバーパンクになっていたのだから、やはりそこは頑張って欲しかった。まるで現代日本のようなTVアニメ版だって、きちんと「攻殻」だった。
 

全体に、過去の作品をばらばらにしたピースで再構築した、普通のハリウッドSFアクションだった。派手なアクションなどを評して「バイオハザード」だと友人は言っていて、なるほど近いかもしれないと僕も思う。
予告編がいちばんの見どころ、とまでは言わないけれども。
 
そういえば、ビートたけしが「荒巻課長」として登場していた。彼だけが日本語そのままの台詞。しかし滑舌の悪い棒読みは、ジャパニーズオリエンタリズムとしては正解かもしれないけれど、深慮よりも‘何も考えていない’ように見えて仕方がない。やたら強くて乱暴だし。
 
ちなみに今回の「少佐」は、あんまり強くない。力も心も、あんまり特殊部隊の人らしくない。
でも、今までの作品で無理だったアレを力尽くで開けられるあたり、なんともいえない違和感がある。
 
 
これは映画の内容とは直接関係無いのだが、「柳宗理のステンレス・ケトル」が劇中に登場する。そのケトルは、お湯が沸いたらぴーぴー鳴っていたが、もちろん義体が実現する世界だから、その程度の技術的進歩は気にしない。我が家のケトルにも欲しいところ。
 
 
なんだか辛辣なことを書いてしまった。
しかし観て損をした気には、まるでならない。
ソウルでもスピリットでもなくゴーストが殻に入っている、という物語の中心軸はずれていないし、往年の名場面がハリウッド流の豪華CGになっている点だけでも観る価値がある。
 
短い時間できちんと娯楽作に仕上げているところは素晴らしいし、単純なストーリーは親切かつ集中を削がない。繰り返しになるが、これは「バイオハザード」的な、頭を空っぽにして楽しむ映画だと思う。
ニューロマンサーやブレードランナーから繋がるSFを期待すると、たぶんつまらない。
ともあれ、映画館でポップコーンを食べながら気楽に「攻殻機動隊」を観る未来、そんな時代なのだ。長生きはするものです。
カトゥ

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