カトゥ

ワイルド わたしの中の獣のカトゥのレビュー・感想・評価

ワイルド わたしの中の獣(2016年製作の映画)
3.5
理解して納得して楽しむ、そんな作品ではなかった。
でも、いかにもミニシアター的な映画で、僕は気に入った。

孤独で職場にも馴染めない若い女性が、偶然出会った狼に惹かれ、部屋に連れてきてしまう。狼への欲望はエスカレートしていくが…といった映画で、では寓話的かというと完全に直接的に「狼を家に連れてきて恋人のように接する」お話で、ストレートすぎてびっくりした。
いや、何かのメタファだったり、耽美さを楽しんだりする部分もあるのだろうけれど、要は社会との摺り合わせが上手くできないで狂っていく若者を描いていくだけなので、共感も感情移入も阻むつくりになっている。どちらかといえば、ゴミ屋敷を構築するタイプの狂人に近い。つまり、親近感が湧かない。
だから映画としてつまらない、という訳でもないし、人によっては“ドン引き”して見続けるのが辛いかもしれないので、見るのならば本腰を入れてスクリーンに向かう必要があるかもしれない。
狂人というのは端的に言うと「自分の発想に囚われている人」であり、他者からするとどうしても面白みに欠ける。ここまで「ワイルド」になる女性だからこその物珍しさや美しさで2時間はあっという間だが、でもやっぱり飽きてしまいそうになった。

おそらく多くの人に、彼女のような狂い方は出来ないだろうし、しない。
しかし、例えば夜中にふと思いついて手芸工作を初めて夜更かしする(明日は仕事なのに)、なんて小さな非理性なら誰だって思い当たる節があるだろう。ストレス解消に不必要な料理をしたり、とか。
この映画の主人公の狂気は、それに近い気がしてならない。そんな意味では、僕達と地続きの「獣」だろう。

この映画の狼は、CGや特撮ではなくて、本物を使っているとのこと。主人公の女優は、文字通り体当たりの演技である。怪我ですら本物ではないか、と思えてくる。
つくりものではない生き物ならではの、無駄のある振る舞いが、この作品に奇妙な空気感を与えていた。このいささかのめり込み難い作品に、引っかかりというか奥行きというか、最後まで見続けさせる力を与えていたのは、あの“本物の”狼だったと思う。

しかし「若い女性が野生の雄狼と同居」という前情報で期待して観たガールやレディ達が軒並みがっかりしていたのには同情する。そういうレディコミ的な映画じゃなかったですね。友達は「本当に獣だった!」と文句を言っていた。

最初に書いた通り、僕は気に入りました。
予告編でぴんと来た方にはもれなくおすすめ。
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