フライ

黄金のアデーレ 名画の帰還のフライのレビュー・感想・評価

4.1
以前から興味のあった本作だが、最近NHKのアナザーストーリーで放送されたナチス略奪絵画について扱った衝撃的な内容に、本作が紹介されていたのを見て一層感化され鑑賞。
ナチスが絵画などの芸術品や高価な貴金属を略奪していたのは、映画にもなっているだけに有名な話だが、それが未だに本作の様な、国まで巻き込む騒動になっていた事には驚いたし、余りにも酷い内容に苛立ちも。

1998年アメリカ、ロスアンゼルス。ヘレン・ミレンが演じるユダヤ人のマリアは、姉の遺品整理で見つけた手紙の悩み事を、葬儀に来ていた親友に話すと、親友の息子であるライアン・レイノルズが演じる弁護士のランディにマリアへ連絡させる事を約束する。
ランディは、大手法律事務所を退職後、個人事務所を開くが上手くいかず、改めて大手の法律事務所に雇って貰うため面接に。オーストリア人の音楽家で有名だった祖父や、判事だった父の名声もあり何とか雇って貰うことになるのだが、そこに母親から親友マリアの相談の連絡が。
ランディは渋々マリアの自宅を訪ねると、マリアから美術品返還について聞かれるが、知識の無いランディは知らないと答えるも、勉強すればいいと強引に自宅へ招かれる。マリアは生立ちと共に依頼内容を話し始めるが、それは昔住んでいたオーストリア、ウイーンの担当弁護士から姉宛の手紙に書かれていた第二次世界大戦時、ナチス・ドイツに没収された亡き叔母アデーレの絵画についての事だった。そしてオーストリアの美術品返還に関して法律が改定された事を新聞により知った事を伝える。ランディは、'絵画が返って来たら大金持ちだ'と冗談を言うと、怒ったマリアは、'過去の記憶が死なない様にしたい'そして'正義の為'と真剣に話す。
ケイティ・ホームズが演じる愛する妻パムと産まれたばかりの子供との生活の事や転職直後と言う事も有り、片手間では無理だと分かった依頼内容に、ランディは気乗りがしなかったが、絵画の価値を調べるとオーストリアの至宝とまで言われる名画で1億ドル以上の価値が有る事を知り俄然やる気に。
ランディはマリアに一緒にオーストリアへ行く事を勤めるも二度と行く気は無いと断る。しかし叔母アデーレのマリアの内気な性格を心配した'不安に負けず克服しないと'と言う言葉を思い出し、故郷でもあるウイーンへランディと共に絵画を取り戻す為に行く。しかしオーストリア政府は、思いも寄らない辛辣な行動に出る。

キャスティングが秀逸な事もあったが、興味深いストーリーも手伝い想像以上に楽しめる作品だった。
マリアとランディがオーストリア政府から絵画を取り戻す為に奮闘する現代と、回想シーンなどマリアの幼少期や結婚、ナチスドイツの侵略に怯える日々の過去を上手く織り交ぜながら感情移入させるストーリー展開は絶妙でとても分かりやすく、作品としての素晴らしさを感じた。
ナチス・ドイツの侵略行為やユダヤ人迫害は、言うまでも無く胸糞悪いシーンばかりだが、当時なんの抵抗もせずナチスに従ったオーストリア政府と、現在のオーストリア政府の胸糞な対応がリンクして行く様な内容に、言い様の無い虚しさと苛立ちを覚えた。そしてオーストリア政府が所有を主張している黄金のアデーレは、ナチス・ドイツが略奪した物を渡りに船とばかりにオーストリアの至宝と主張する行動には吐き気が。
当時オーストリアに住むユダヤ人が歩んだ恐ろしい出来事と、マリアに対して未だに寄り添う事が出来ないオーストリア政府の行動は、2回彼女を裏切っているとも思えたし、オーストリアが取り返す事の出来ない大きなものを2つ失うラストに、爽快感よりもオーストリア政府への失望とそんな無能な政府を持つオーストリア国民への同情の方が大きかった。とは言え本作におけるマリアとランディの諦めない行動と、それに見合う結果は本当に素晴らしかった。他にも素敵なシーンが沢山あり、感動も。

オーストリアとオーストラリアの間違えあるあるは、アメリカ人にも有るのだと変な面白さも。他にも皮肉が効いた面白シーンが多くて何ヶ所も笑ってしまった。

法廷ものと聞いていたので、かなり硬い内容なのかと多少構えて鑑賞したが、ユーモアを交えたり、分かりやすく噛み砕いてストーリー展開されるので、全く構える必要は無いと思えた。かなりハードルを下げて楽しめるとおえる作品なので、興味が有れば是非!
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