KnightsofOdessa

スティーブ・ジョブズのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

スティーブ・ジョブズ(2015年製作の映画)
5.0
[これはジョブズの伝記ではない、愛に不器用なおっさんの親子愛を描いた普遍的な愛の物語だ!] 100点(ATB)

最初に断っておくが、この映画はジョブズの伝記ではない。彼の伝記を期待するなら他を当たるといい。本作品はジョブズという20世紀後半最大とも言える巨大なイコンを鮮やかな手捌きで換骨奪胎し、ジョブズ周りの喧騒と父性欠落をワンシチュエーションに圧縮した濃密なドラマなのだ。

物語は、1984年のMacintosh、1988年のNeXTcube、1998年のiMacの発表プレゼン前の30分間を3回体験することになる。主要人物は、ジョブズ、マーケティング担当のジョアンナ・ホフマン、親友でエンジニアのスティーヴ・ウォズニアック、ペプシ・コーラから引き抜いた社長ジョン・スカリー、MackintoshのOSを開発したエンジニアのアンディ・ハーツフェルド、ジョブズの元恋人クリスアン・ブレナンと娘のリサ。以上の7人しかいない。彼らが圧倒的情報量を持った重厚な会話を繰り広げ、物語はいくつもの話が同時並行する、一発では到底理解しえない映画となっている。しかし、テンポがいいから何度でも見られる。素晴らしい。再見に耐えうる映画はそうない。

本作品の主眼は主に娘リサとの関係に置かれている。自分にすがるものにはリンゴを与え、自分を攻撃するものは言い負かすことで人生を切り抜けてきたジョブズにとって、他人に無償の愛を注ぐことが出来ない。お金をあげたりすることは厭わないのだが、物質以外の繋がりを持つことが出来ないのだ。その分、最後にリサにあの絵を渡したのは、「インセプション」にも似た”想い出”を物質以外の繋がりとして初めて娘に示した感動的な瞬間だった。

ヌルヌル動くカメラワークといい、発表プレゼン間のサイケデリックな繋ぎといい、ボイルもジョブズに負けず劣らずの天才なのではと思わせてくれる。良い作品に出合った。

ちなみに、私はApple社製品の支持者ではない。だからこそ、下手なジョブズ像が出来上がっておらず、バイアス無しで本作品を見ることが出来たのかもしれない。
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