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アリスのままでのSのレビュー・感想・評価

アリスのままで(2014年製作の映画)
4.1
アリスはいつまでアリスなのでしょう。
何があれば、魂は彼女の魂のままだと言えるのでしょう。
記憶だけが自分を自分たらしめる?
アルツハイマーの人を見ていても、どんなにボケても、一瞬正気を取り戻したように表情が輝きだして、“あの時のあの人”である瞬間が必ずある。
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言語学者としてキャリアを築き、医者の夫と、優秀な子供たち。女優志望の次女だけが心配の種。
完璧な幸せを手に入れたアリスがある日、若年性アルツハイマーと診断される。
お涙頂戴の感動モノにせず、日に日に悪化するアリスの状態と、それを支える家族の生活が淡々と丁寧に描かれる。それが優しくもドライなところが妙にリアルでよかった。
ラストも「あ、これで終わり?」というくらいあっけなく、それが逆にこれから続く長い長い介護の日々を感じさせて、考えさせられた。


何気ない家事のやり方が分からず、混乱してしまう姿
記憶が零れ落ちる恐怖、遺伝性疾患ゆえの子供への申し訳なさ
介護施設を見学して将来の自分の生活を想像して絶望する姿
「ガンだったらよかった、恥ずかしくないから」健康な身体で精神が衰えていく苦悩が痛いほどわかる言葉
今の状態を知られまいと、友人家族との食事をわざとすっぽかしたり
自尊心や、家族へ迷惑を掛けまいとする想いから、自殺の方法をパソコンに記憶するも
その動画を見ても、理解できない程に症状が悪化していく姿
理知的で硬質な美しさを持つジュリアンムーアが、徐々に感情を失い、あのボケた人特有のうつろな表情になっていくのが名演だった


対する家族も、
妻を支えようとするも、変わってゆく彼女の姿を直視できない夫。
「私が私でいられる最後の夏、ギリシャへ旅に出たい」と言われても、仕事もあり、休みを取れない。何をしだすか予測もつかない妻と旅には出られない現実。
経済的、自分のキャリアのため、彼女との生活は出来ない、色んな理由から転勤を選ぶ夫。でも、やさしさがないわけじゃない。

長女は若年性アルツハイマーの遺伝検査が陽性。将来的に彼女も発症する可能性があり悩むが、長年続けた不妊治療を辞めることなく、子供を出産する。「遺伝する可能性が高いけど、それでも子供を産みたい」その決断も、なんかリアルだなと思った。

夫、長男、長女が「お母さんを施設に預けるのが全員の幸せ。お母さんだってきっとそう思ってる」って3人で言い聞かせる隣で、分かっているような分かっていないような表情で、ソファに寝そべるアリス。
この場面もめっちゃリアルだと思った。私の祖母もそうだった。
実家で支えるだけが美徳じゃない、それぞれに生活がある。それは悪いことじゃない。でも、悩む。

最後、家族で一番の問題児だった次女だけが、アリスがアリスである尊厳を大事にして、世話をし始めるのも、さもありなん。
それだけが、母や家族が認めてくれて、次女が次女として、家族のなかで存在できる理由でもあるっていう辛さも感じたり…。
キャスティングも長女がケイトボスワース、次女がクリステンスチュワートなのもめっちゃハマってた。

アリスのスピーチシーンは特に考えさせられました。

私の人生は記憶に満ちている。記憶は私の最も大切な宝になった。
私が人生で蓄えたすべてが、努力して得たすべてが剥ぎ取られていく。
以前と変わったのは、周りの目線だけでなく、私たちも、自分を見る目が変わってしまう。
色んなことが出来なくなる。だけど、それは私のせいでなく病気のせい。
病気に苦しんでるのではなく、闘っている。
瞬間を生きていく。
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