春とヒコーキ土岡哲朗

プリデスティネーションの春とヒコーキ土岡哲朗のネタバレレビュー・内容・結末

プリデスティネーション(2014年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

こいつにしかない悩みを見せてくれるSF。

ーーーこの辺はネタバレじゃないーーー

不意に始められたドラマ。
タイムトラベルもので捜査官が主人公で、犯人と戦うシーンから始まったので、このままアクションや未来的ビジュアル多めで行くのかと思ったら、一人の険しい人生を追っていくドラマが始まる。
でも期待外れではなく、バーで渋い会話をするところなど、思ってたのと違うカッコよさだな、と期待して観られた。
そして、ある人物の数奇すぎる回想が終わったところで、主人公がその人をタイムトラベルに誘い、ようやくSFが始まる。この時点で映画全体の半分。フリの長さに、一体何が始まるんだとワクワクする。

数奇すぎる人生。
前半である人物の壮絶な人生が明かされた。内容もインパクトがあるが、それをインパクトをごり押ししない品のあるドラマで描く。そして、後半でタイムトラベル要素が乗っかり、フリが回収されまくる。
この映画の登場人物は、自分の置かれた状況に悩む。これが、SFだから起こりうる状況で、現実の我々には一切関係ない。我々はこんな状況になりえない。でも、描写が丁寧だから登場人物の気持ちは伝わってくる。SF要素を使って特殊な立場を作って、特殊な心情を届ける、というSFならではの面白さ。

ーーー以下、ネタバレーーー


宿命に逆らえるのか。
女性だった頃の自分と恋をした作家は、時空警察の仕事をしている中で顔が焼けてしまい、自分を時空警察に誘ったバーテンダーの顔になった。バーテンダーまで同一人物だった衝撃。さらに、ずっと追っていた爆弾魔まで自分だったという結末。
主人公は、時間の輪に振り回されておかしくなって爆弾魔になっていた。ここで、自分が爆弾魔を殺したら、自分もいずれ年を取ったときに爆弾魔になったのち殺されるかもしれない。今、爆弾魔を見逃せば、将来は爆弾魔として独りよがりだけど達成感を得て生きながらえることができる……。
主人公は、爆弾魔を射殺する。そして、険しい顔でカメラを睨みつけて終幕。恋愛のときに逆らえなかった宿命に、今度は逆らった、という印象もある。だが、射殺も含めてずっと繰り返すループなのかもしれない。だとしたら、彼がこの後おかしくなってテロリストになるのも避けられない道で、過去の自分の正義感に射殺されるまで人を巻き込むのかもしれない。主人公がこれから起こる爆破テロを本当になくしたいなら、爆弾魔になる前の自分が自殺する、という方法があるわけで。
彼の最後の覚悟ある射殺すらも、ループする宿命に閉じ込められた行動だったんじゃないか。そう思うと救われない。