まぬままおま

THE DEPTHSのまぬままおまのネタバレレビュー・内容・結末

THE DEPTHS(2010年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

無理してクライムやサスペンスを導入している感じが否めない。しかし肯定的に捉えてみる。
例えば交点と別れについて。

男娼・リュウの殺人とカメラマン・ペファンの友人の結婚がどのように交差するのかを私たちは期待する。だが、その実際は、男娼が逃走する際に結婚式場の近くを通り、ペファンに撮られてしまうものでしかない。またリュウの上司が殺された男を車椅子に乗せて式場の横を通る時に、ペファンらと「事故」になることは劇として緊張状態を生み出していないから思わず笑ってしまう。

この一見奇妙な事故による交差によってドラマの失敗を感じてしまうのだが、実はこの「交点」の描写が、ラストシーンの車によるリュウとペファンの必然的な別れと対比されていると考えるならば肯定的に受け止められる。

そして「事故」はリュウとペファンの偶然の出会いのためだけではない。いやむしろ彼らが出会わざるを得なかったのは、ペファンがリュウに「惹かれる」という事故が起きたからだろう。このように欲望が駆動する衝動を「事故」と捉えれば、物語の主題も成す。

自身に無いものに惹かれることは往々にしてある。欠落していると思うからこそ他者に追い求めてしまう。しかしその魅力は、私の想像や理解の範囲外のものであり、光よりも闇、不気味なものでしかない。そんな「the depth」を覗いてしまったら…?〈私〉が後戻りできない可能性は高い。

しかし私たちはそう簡単に深みへはいけない。自身が変わることを恐れるから。だからこそ彼らは飛行機で韓国へ飛び立つことができず、車で別れざるを得ない。それもまた必然なのだ。

ペファンはカメラマンとして深みを覗く/撮る術があるにもかかわらず、「別れ」が到来してしまう。リュウもモデルになると決心しても男娼に戻ってしまう。変われない。それなら私たちにはどんな可能性が残っているのだろう。

蛇足
結婚式がロケ地として採用されているのは、前作の『永遠に君を愛す』から続いているし、さらに関係の絶頂にある二人に本当が現れてー本作では同性愛(?)、本当の感情と言うべきものー、別れがきてしまうという点でも通じている。

最初の殺人の描写でリュウが鼻血を出すのは奇妙だと思いつつ、『悪は存在しない』でもラストシーンで倒れる花は鼻血を出している。鼻血の描写に固執があるのだろうか。それとも他の作品からオマージュされているのか謎だ。

ペファンの友人もカメラマンでありスタジオも持っているのだが、その仕事内容はポルノ系の撮影である。ドラァグクイーンが登場したり、被写体の女性が裸体になることに驚きつつ、この仕事内容はどのように想像されているのか気になる。私はまだ未見だが、『天国はまだ遠い』ではAVのモザイク付きを生業にする男が登場するし、「カメラで食っていけない男がポルノ系の職で生計を立てる」ことは、突発的な空想上の設定ではないように思われる。濱口監督が学生時代や『ハッピーアワー』を撮る前に何をやっていたか気になるのは私だけか。