亜留

墨東綺譚の亜留のレビュー・感想・評価

墨東綺譚(1992年製作の映画)
4.0
6年くらい前にグアダラハラにあった古本屋でこの映画の原作に出会って、表紙に惹かれて安く買ってしまった。この6年間で何回も読もうとしたんだけど、日本語が難しすぎていつも2ページで諦めては本棚に戻していた。この映画もずっとウォッチリストに入ってたんだけど、原作を読んだらということでずっと見ないようにしていた。だけど、去年の冬初めて日本へ行って、「濹東綺譚」の中心となる隅田川のすぐ近くに泊まって、毎日そのあたりを散歩していたので、メキシコへ帰ったら今度こそ小説を読んで映画も観ようとやる気を出して、この間ついに読み遂げた。

原作を読んでから映画を観ると、つい原作と映画は場面が違うところが気になってしまうし、新藤兼人が監督した「濹東綺譚」ももちろんそういうのがあるんだけど、それは決してよくないとは思わない。たとえば、小説の主人公は作者の身分と考えられている大江匡という男の人なんだけど、映画の主人公は永井荷風本人で、するとこの映画は作者へのオマージュだと考えてもいい。それに、時間の流れから言えば、映画も原作より幅が広くて、途中で原作にほぼない戦争の話も出てくるんだけど、なるほどね、これは厭戦の映画でもあるんだとここで分かる。

主人公がお雪という美しい女の人と付き合う理由も、その結末も少し違う。隅田川東岸の物語の主人公は若いお雪に好かれてうれしい一方、年はお雪の2倍以上もある自分にはお雪を幸せにできるかどうかという疑問と、娼婦であるお雪はおれを使って身分を一変させようとしているのではないかという疑心をも持ってしまう。映画では小説と違って主人公はお雪と一緒になることを決心するんだけど、戦争のせいで完全に合わなくてなってしまってそのまま老けていく… 個性のある映画化で原作より少し悲劇的なんだけど、めっちゃ気に入っていつかまた観たいと思う。
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