とりこ

グランド・ブダペスト・ホテルのとりこのレビュー・感想・評価

4.0
洗練されたデザイン作品を眺めているように完璧な構図、細部までこだわりの詰まった美術、あまいあまい中間色の色調……しかし物語は結構な辛口。ただのおシャレ映画ではなかった。

とある由緒あるホテルの華やかりし時代。名高いコンシェルジュ グスタヴ・Hの巻き込まれる事件が、香り高いエスプリをむせ返るほど纏わせながら、想定外の方へ想定外の方へ展開しまくりまったく息つく暇もない!
運動性もまたユニークで映画的、造形美もありつつこれはよい意味で大変なエンターテイメント作品であった。

一方で、この映画の軽々と提示する価値観がとてもすきだ。年老いて孤独な富豪マダム達から熱狂的に愛されるわれらがグスタブ・Hをはじめとして移民のベルボーイ ムスタファ、メキシコ型の大きなアザを持つ可憐で勇敢なアガサ。マイノリティの愛らしさ、誇り、それでいて優雅なヨーロッパと思われる文化への敬意は溢れ出すようだし、悪しき歴史の冷酷さを体感することもできる。

この殺伐とした世界にあって 点けた側から吹き消されるロマンの燈を グスタブ・H、ムスタファ、アガサ達は今もまだ灯し続けるのである。
とりこ

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