グラフィティに焦点を当てたドキュメンタリーが真新しい。ここにいたのは恐れを知らない圧倒的表現者達だった。究極の合理化の自己実現者達だった。アートになるかどうかは表現力はもちろん、どこに描くかによって変わるものなんだろうな。受動側の寛容な精神の土台がなければ不利だろうから。

グラフィティーライターは街のデザイナー

1980年初頭。
ヒップホップ・カルチャーの黎明期。

スプレー缶で街の壁や、電車を塗り潰した”グラフィティーライター”

ラップは話し言葉
ブレイクダンスはボディーランゲージ
グラフは書き言葉で
社会に自分の存在を伝えた

ライターたちはフロアではなく、街をロックする





感想です。

ヒップホップ・カルチャーに対して物心がついた頃には、グラフは当たり前の文化のように扱われていたので、最初はそんな感じだったのか、そりゃそうだよなと、ある意味安心しました。

だって、公共物に落書きしたら普通に考えて犯罪だし、スプレー買うにしたって金が要るけど、金もない少年たちが中心の文化だから万引きしちゃうし、何にもいいこと起きてませんからね。

極め付けに、「電車に何の恨みがあるのよ」と問われた少年が、「オレに電車賃を払わせるからだ、、払ったことないけど」と白状するシーンは、やりとりのテンポも含めて笑けました。

ヒップホップ大好きな私でも、面白い作品だとは言い難い内容だったので、参考資料程度に観ときたい人以外には、全くもってお勧めできない作品でした。
冒頭の電車が街灯に照らされる演出だけは、気に入りました。

• #oln2021
• #atTheater2021
• #OLN'sFuckUp

ヒップホップの四大要素であるラップ、DJプレイ、ブレイクダンス、グラフィティの中で、本作では特に1970～80年代初頭のニューヨーク、サウスブロンクスで生まれたグラフィティを中心に取り上げ、その当事者である若者たちを活写していく。
その大半はアフロ・アメリカンやヒスパニック系の若者たちで、コミュニティで行われていたブロックパーティから生まれた文化であり、スプレー・アートのグラフィティは壁や電車という公共施設や公共交通機関に描かれることが多い。
だから当時、グラフィティを芸術と認識しない人にとっては単なる落書きと変わらない為、景観保護の観点から所有者や管理者がグラフィティを描く、ライター (writer) やペインター (painter)と対立することになる。
つまり、この行為は器物損壊罪に該当する訳で、日本でも一時期、渋谷区宮下公園周辺は落書きで埋め尽くされていたが、そんな過去も再開発で跡形もなく無くなり、新たな商業施設｢MIYASHITA PARK（ミヤシタパーク）｣がオープンしている。
閉塞感溢れる社会に対する反発、格差に対する反抗がグラフィティにしろラップにしろあると思うが、この単なる落書きやじたが、黒人英語で「おしゃべり」や「会話」という意味であるラップが、本作から40年経った今では、バスキアやキース・へリング、バンクシーらのアートに繋がり、ラップは世界中のミュージシャンが自らの楽曲に取り入れるようになっている。
そして本作に登場するブレイクダンスも、当時は小さな会場でのコンテストだったものが、2024年のパリのオリンピックでは追加競技種目に選ばれている。
長らく日本では未公開だった本作は、ヒップホップの黎明期を活き活きと伝えている貴重なドキュメンタリーだと思う。