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SOMEWHEREのnetfilmsのレビュー・感想・評価

SOMEWHERE(2010年製作の映画)
4.2
 黒のフェラーリは急スピードで田舎道を時計回りにちょうど5周する。セレブリティ御用達のシャトー・マーモント・ホテル。ベッドに寝転んだハリウッド・スターであるジョニー・マルコ(スティーヴン・ドーフ)は虚ろな目をしながら、Foo Fightersの『My Hero』に合わせて踊る双子のポール・ダンサーのパフォーマンスに目をやる。Tバックのヒップがチラ見出来る絶好の状況なのに、男はウトウトと眠りに落ちる。急ごしらえで用意されたポールを折りたたみ、ステレオ・プレーヤーを抱え彼の部屋を去るシンディ(カリサ・シャノン)とバンビ(リスティーナ・シャノン)。左手にギブスをはめたジョニーは昼間っからコロナビールを飲みながらタバコをふかす。携帯に届く非通知のメールには「どんだけ嫌なわけ?」という冷たい文言が並んでいた。交差点で横付けされた女の微笑みに満更でもない表情を浮かべ、狭い路地伝いに女の行く道を尾行するジョニーだったが、途中虚しくなりホテルへと帰る。セクシーなテニス・ウェアに着替えた双子の姉妹のAmerieの『1 Thing』に心踊るジョニーだったが、彼女達のセクシーな生脚にも何故か触ろうとしない。酔っ払ってうたた寝をしていた彼のギブスに書かれた「クレオ」の文字、うっすら目を開けた彼の前には娘のクレオ(エル・ファニング)が微笑みかけ、少し離れた壁際には別れた妻のレイラ(ララ・スロートマン)が立っていた。

 ホテルに止まる有名なセレブリティの物語として、自身の『ロスト・イン・トランスレーション』とも双璧をなす物語では、またしても主人公は言いようもない孤独に苛まれている。愛した妻との結婚生活は終わり、ハリウッド・スターとしてのオーラは、セレブリティに憧れる若い女性が放っておかないが、今作でもジョニーはED(勃起不全)に悩まされている。美女に誘われたベッドの上、秘密の花園に口づけした瞬間、男は気絶したように眠ってしまう。その姿は滑稽だがどこか深刻そうで笑えない。孤独な男は憂鬱なうたた寝から目覚めたところで、長年別居状態だった自分の種から生まれた美しい少女クレオと出会う。左手にぐるぐる巻きにされた白のギブスは男根の機能停止のメタファーであり、クレオが黒のサインペンで書いた「クレオ」の文字からゆっくりと雄としての機能は立ち上がる。SNSに注意を奪われながら、ながら見していたクレオのフィギュアスケート、スマフォで撮影した黒のSUVのナンバー、ベッドでアイスを頬張る2人の姿は、チョコレートに舌鼓を打った『マリー・アントワネット』を想起させる。数年間、一度も顔を合わせていなかった父と11歳の娘は、一度しかない父親と娘としての最後の夏を謳歌する。灼熱のLAからイタリアへ、ジェットコースターのような2人の旅は、皮肉にも勃起不全だった父親に男としての尊厳を復活させる(隣の部屋で貫通した後、日曜日の廊下にはクレオが待つ)。意表を突くようなクライマックスのジャンプ・カット、永遠よりも一瞬の刹那に生きた父娘の姿がただただ胸を打つ。
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