ベルイマン作品でいちばん好きかもしれない。バイオリンのソリストに挫折した楽団員の夫とその妻の愛の物語。ラストの第九の歓喜の歌が余韻となって響いた。初期の作品では、ベルイマンはこんなに素直に男女の愛と人生を描いていたなんて。難解な神の解釈などはまったくなく、人間味溢れ、コメディタッチでもある。出会いから結婚、家庭、誤解と、短い7年の二人の人生を遡っている。
わがままで子どもっぽい夫は孤独で無作法。楽団の指揮者(『野いちご』の教授役)に悪態つくが、まるで父と息子のような関係。
妻(『夏の思い出』の少女役)も楽団員でバイオリンのパートだったが、双子が生まれてから家庭にいる。
夫婦の会話がリアルで、ベルイマン32歳の作品とは思えない。人間の機微を知り尽くした、奥行きのある脚本を書く力をどうやって獲得したのだろう。巨匠は最初から別格だったんだろう。
ベルイマンについてのドキュメンタリー『イングマール・ベルイマンを探して』を観たときは、あんまりいい気分になれなくて、作品と作家は別だと思ったが、この細やかな心の動きや人の喜怒哀楽を表す力がどう生まれたのか知りたいと思う。
交響楽団の練習風景が長いのでクラシック音楽好きな方にもお勧めします。