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セックスと哲学のnetfilmsのレビュー・感想・評価

セックスと哲学(2005年製作の映画)
3.8
 冒頭、車内前方に40本の白いロウソクが並べられ、火が付いている。やがて自分の思い出を盛り上げてくれるような盲目の音楽家を道で拾い、彼の演奏を肴に男はゆっくりと独白を始める。詩人のジョーンは40歳の誕生日、4人の恋人たちを午後2時に教室へと呼び出す。鍵は秘密の場所に隠され、自分と男だけの秘密だと思っていた女性たちだが、既にそこには別の女がいた。あまりにも大胆な導入部分に一気に惹きつけられる。女たちはジョーンの誕生日を祝おうと純粋な気持ちで教室へと入るが、そこには既に別の女性がいて彼女たちは一瞬怯む。私たちはなぜ同時にこの場に呼ばれたのか想像出来ないが、恋が終わる予感は4人それぞれが同時に持つことになる。

 フィクションとドキュメンタリーの境界線が非常に曖昧で、演劇性の強い物語が展開していく。普通は女同士が4人鉢合わせになれば、敵意剥き出しの喧嘩が繰り広げられるが、女たちは一切そのような行動をしない。喜怒哀楽の「怒」の感情はどこかに捨て去られ、独特の哀しみだけが詩情としてそこへ残る。4人の女と1人の男の修羅場であるはずの空間では、既に午後のダンス・レッスンが始まっており、多数の生徒たちの中で先生を演じようとする男の姿はある種異様に映る。

 その後4人それぞれに終わった愛の回想が始まる。傘の色にも明らかなように、今作はワイン・レッドの色味が印象的にスクリーンを彩る。ロング・コート、蓄音機、一輪の花、傘、グラスに注がれるワイン、それら全てがワイン・レッドで統一されることで、画面に張りが漲り、女性たちの喜怒哀楽を意気揚々と伝えるかのようである。今作は物語というよりはマフマルバフの想いを登場人物たちに語らせた寓話的フィクションであり、ポエトリーである。だからこそストーリー・ラインとしては弱いが、何よりも審美的ショットの数々に目を凝らして観れば、マフマルバフの意図が見えて来る。
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