逃げるし恥だし役立たず

招かれざる客の逃げるし恥だし役立たずのレビュー・感想・評価

招かれざる客(1967年製作の映画)
4.0
名医である黒人医師ジョン・プレンティスが婚約者である白人の娘ジョアンナ(ジョーイ)・ドレイトンの家を訪問するが彼の肌の色が一家に波紋を広げる。白人女性と黒人男性の結婚問題を通してアメリカ社会に根強く残る黒人問題を正攻法で描いた良心作の社会派ドラマ。
世界的に著名な黒人医師ジョン・プレンティス(シドニー・ポワチエ)がハワイで知り合った白人女性ジョアンナ(ジョーイ)・ドレイトン(キャサリン・ホートン)との結婚の許しを得るため、サンフランシスコにあるジョーイの実家を訪れる。ジョーイの母親クリスティーナ・ドレイトン(キャサリン・ヘプバーン)は驚きながらも幸せそうな娘を見て祝福しようと決意するのだが、リベラルな新聞社を経営して人種差別反対を強く訴えてきたジョーイの父親マット・ドレイトン(スペンサー・トレイシー)は自分の娘が黒人と結ばれる事に戸惑いを隠せない。娘に黒人差別の愚かしさを教え、その教えどおりに育った事と、娘の行く末を案じる父親の気持ちと相反する矛盾に悩む。ジョンがそんな父親の気持ちまで察する好青年だから一層悩みが深まる中、やがてジョンの両親プレンティス夫妻もかけつけるが、彼らも息子の相手が白人とは知らされていず愕然とする。友人のライアン神父(セシル・ケラウェイ)や二人の母同士の強い説得を受けてマットは決断する。名匠スタンリー・クレイマーが人種問題を乗り越えて愛を貫こうとする若者達と家族の苦悩と葛藤を心温まるタッチで描いた、アカデミー賞をはじめ数々の賞を受賞した感動の社会派ドラマで撮影終了直後に惜しくも他界したクレイマー監督の遺作でありスペンサー・トレイシーにとっても遺作となった。
原題『Guess Who's Coming to Dinner (=今日のディナーに(悪い意味で)誰が来ると思う?)』からの『招かれざる客』の邦題は見事で、ワンシチュエーションのホームドラマの視点で繰り広げられる人種問題をテーマにした濃密な感情ドラマが軽快なコメディ調に展開する点は面白く、普遍的に幅広く観て欲しい作品の一本である。
頑迷なマット・ドレイトンが自己矛盾に葛藤しつつ子供の幸福を懸命に願う母親達の動揺に共感して最後に熱弁をふるうと云った脚本運びも流石だが、やはり天真爛漫な箱入り娘のキャサリン・ホートンに振り回されて困惑と葛藤に満ちた姿を好演したスペンサー・トレイシーとキャサリン・ヘプバーンの両名優に尽きるだろう(目を潤ませるキャサリン・ヘップバーンがソロで映るたびに年不相応に紗がかかるのには流石に苦笑するが、スペンサー・トレイシーの顔芸は何度観ても唸ってしまう)。
人種問題がテーマの先駆的作品にしては重々しさが無く何処か緩く感じられるのは未だ十数州で黒人と白人が結婚するのは違法で罰せられる60年代アメリカの時代背景からで、画廊のヒラリーやタクシー運転手や黒人メイドのティリー達のジョン・プレンティスへの態度を物語に挿入する位が限界だったのかもしれない。
黒人だが超エリートで妻子と死別という設定は言い訳が過ぎる感があったり、登場人物が皆んなして立派過ぎて完璧な人が集まるのは何処か嘘っぽいのだが、人種問題は副次的な物であり主題歌 "The Glory of Love"で始まる子供を思う親心の寓話として観るべき作品であろう。
社会的地位と名声があって教養やマナーを身につけた中性的で無害なシドニー・ポワチエ演じる黒人男性ならではの物語であって…普通の其処らにいる労働者の黒人のオッサンを連れてきたら果たして許されただろうか?