萌える闘魂

サンライズの萌える闘魂のレビュー・感想・評価

サンライズ(1927年製作の映画)
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番犬が吠えまくる作品である。柵を越え坂をダッシュで下り躊躇無く水に飛び込み舟に救われるが、この単純な挿話が超シンプルな物語にあって、最初に波風を立たせる契機となっている。物語はやがて尋常ならざるものに変貌していき映画史上でも比類の無い嵐に巻き込まれることになるだろう。街も交通機関も室内遊園地も全て巨大なセットで再現し、ムルナウ監督の映画世界の完全なる具現化を後押ししている点に是非注目して頂きたい。この極めて人工的な世界で様々な映像技術を駆使して人間のある意味ダンテのような人間の万物世界をドキュメンタリーのごとく構築するという実験精神に満ちた絵作りに真っ正面から挑んだ希有な試みである。結果、映画の持つあらゆるジャンルを呼び寄せたばかりか、逆にいえば映画ジャンルの解体と未知のジャンルの不意の出現に映画そのものも狼狽えるという摩訶不思議な現象が時に映画をブラックな喜劇へと導いたりもするが、ついに人工的なそして映画的な嵐を発動させ人間界を浄化させ悪夢のような物語を聖なるものに収斂させていく。ゲイナーの無垢が圧倒的に素晴らしい。後年のリーン監督の『ライアンの娘』に通ずる何かがある作品である。