大作志向があるスコセッシらしからぬ不条理な小作品ではあった。オープニング・クレジットはワルツのような旋律でキューブリックを彷彿させており、中身は小気味良い展開であり、丁寧にまとめていたと思う。
例えば内容は全く違うが、大御所リドリー・スコットが撮った「マッチスティックメン」のように、あまり根を詰めず終始和やかな感じで撮影した現場の状況が想像できる。
主人公であるポールの前に現れる不可解な行動を起こす登場人物たちは、彼を不運の数々を撒き散らす原因ではあるが、最終的に物語として整合性をとって紐付けをしているあたりは構成として優秀である。
ブラック・ユーモアの要素が強いため、スコセッシのテーマであろう社会の隙間から生まれる孤独感は、垣間見えるぐらいではあるが、少なからずこの作品でも引き継いではいる。
当初ティム・バートンにも打診があったようだが、前作「キング・オブ・コメディ」の当時としての評価や他の進行中の映画が進まないことで、少々スランプ気味で再起をかける意味で引き受けたらしい。
夢に中でみられる家に帰れない現象は、リアルな体験のように感じてしまう「夢の中での帰宅困難」。これは家に帰りたくてもたどり着けない、なぜか全然違う場所に到着する体験が一般的。映画をはじめ小説や歌詞などでもよく扱われる題材である。
ちなみに撮影監督の故ミヒャエル・バルハウスはファスビンダーの「ペトラ・フォン・カントの苦い涙」等も携わっている。
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