Ren

2046のRenのレビュー・感想・評価

2046(2004年製作の映画)
3.0
もっとSF色の強い作品になっているかと思いきや、やはりウォン・カーウァイだった。ただ、多くの人が想起する所謂ウォン・カーウァイらしさにそこまでハマっていない自分にとっては今作はかなり楽しめた。

前半の、まともな大人であれば冷笑して終わりな肩身の狭い恋愛を過剰にドラマチックにせず緩やかに描く様の「またか」感。だけどその道中は『花様年華』のような奥ゆかしい官能ではなく、直接的なベッドシーンが描かれることで過去の60年代作品よりもどこか粗暴な雰囲気があることが汲み取れる。

単純に、上記のようないつものストーリーと並行してSF小説の内容が展開されることでレイヤーが増え、エンタメとしての充足感が上がって楽しめた。
時が止まった2046の世界を目指し、そこから出て行く人間をキムタクが好演。「何を演じてもキムタク」じゃないキムタクが見られただけでこの映画は上出来だ。

過去の恋人の呪縛と2046が呼応しており、現実世界と創作世界の双方に「気持ちを届けようとする男と彼に応えない恋人」のモチーフがある。トニー・レオン=木村拓哉 の贅沢な構図が出来上がり、彼らは表裏一体の関係として「恋愛が成就しない人生」を体現していく。

相手をコロコロ変えて真剣で一途な恋愛をする素振りを見せないチャウ(トニー・レオン)はクズなプレイボーイなので好きになれないけど、過去に愛した女性の幻影に囚われていたことが終盤で明らかになる。数多の恋の中を蛇行する中で、ある女性への執着に気づく男の話。それをちょっとチープなレトロフューチャーSFと合体した話として、珍作の風はありながらも普通に良作だったと思う。
スコアが低めなのは、WKWファンがなんか違う感をこの映画に見出しているからだろうか。

香港の五十年不変の約束と重ねた考察は、知識不足なのでパスする。そんな大層な思想を含んだ社会派な作品というよりは(『欲望の翼』『花様年華』よりは含んでいると思うけど)、もっとパーソナルな人間の話として読み取った。
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