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麦秋のmasayaanのレビュー・感想・評価

麦秋(1951年製作の映画)
4.2
原節子が、北鎌倉駅に立つ時、もうそこでは事件以上のことが起きている。それだけでいわば歴史である。村上春樹の小説で言えば、男が井戸の中でスパゲッティを食べてるようなものだが、しかし、北鎌倉駅に原節子である。なんて美しい序盤の掴みなんだろうか。

時々、思い出したように動くカメラ。意味が分かる動きと、さっぱり分からん謎ムーブがほとんど交互。

それよりも、編集の巧みさが染みた。特に、戦争で死んだ次男の事を思って、悲しみに暮れる老夫婦の後を引き取るのが、ブランクショットの鯉のぼりで、さらに次のブランクショットで路上の子供たちが映される。それはもう、ブランクではないと。あるいは、空に放たれた風船。ただの繋ぎなのに、クライマックスのようなシークエンス。うーむ、すごいなこれは。

家族の終焉、女の幸せ、結婚。娘を嫁に出したり、親を捨てたり。大文字のテーマにだらっとした物語かと思いきや、原の演ずる紀子が決心してからの後半は見ものだ。
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