masayaan

ファントム・スレッドのmasayaanのレビュー・感想・評価

ファントム・スレッド(2017年製作の映画)
3.5
必ずしも円熟だけを目指している訳ではないだろうが、しかし円熟してしまうことを拒絶もしてなさそうな、これからの年の取り方を探しているような一作。曲がりなりにも学生時代に『ゼア・ウィル~』を観て以来、人並みにはハマり、『ブギーナイツ』を90年代の、『ザ・マスター』を10年代の傑作上位に数える身としては、この最新作を劇場で観ていないことを深く恥じらいつつも、ようやく観ました。

「シック」じゃない、「シィク」だ、というのは伊丹十三のエッセイで習った口だけれども、劇中、確かに「シィク」と発音しているようだなと妙なところに感心しつつ、男の、すわなち「エレガント」の時代が終わりつつあることに、何とも言えぬ胸騒ぎを覚える。自分の時代が、自分の全盛期が、決して永遠ではないことを知った男が駆け込むようにすがったのは、世間で「愛」と呼ばれる女との危うい関係だ。中には「結婚」と呼ぶ人もいる。

試しに「ミッドライフ・クライシスの映画だ」といえば、まあ、意外とそんなものなのかもしれないし(ミッドじゃない気もするけれど)、ヒッチコックだよヒッチコック、マザコン映画だよという皆様のレビューを読んでから振り返れば確かにヒッチコックでもある。が、実は食事映画という別の顔もあり、意外と捉え難い。とは言えまあ、まず何を差し置いても、出会いのシークエンスの地味さが素晴らしい。が、騒がしいパーティー会場の片隅で見つめあう(=にらみ合う)二人の横からのショットがやはりベストだ。
masayaan

masayaan