うえびん

ブリキの太鼓のうえびんのレビュー・感想・評価

ブリキの太鼓(1979年製作の映画)
4.2
アジール

1979年 西ドイツ/ポーランド作品

原作はノーベル賞作家ギュンター・グラス。

物語の語り手・オスカルは3歳で自らの成長を止める。成長をやめたオスカルは、家族や地域や社会の傍観者として周囲の人びとを眺める存在となる。いつまでも小さいままのオスカルが語るマツェラート家の物語。奇抜な設定そのものが面白い。

時代はナチスの足音も響きだす1920年代、場所は、ダンツィヒ(現ポーランドのグダンスク )。ダンツィヒは、第一次世界大戦以後、ドイツから分離され、国際連盟の管轄下にあった国際都市で、ロシア人、ドイツ人、ポーランド人などさまざまな少数民族の混在する自由都市だったという。

学生時代に本作を一度観た覚えがあるけど、オスカルの叩く太鼓の音とヒステリックな叫びだけが印象に残って、ストーリーは全く理解できなかった。今回は、東欧ポーランドという国の“大きな物語”とマツェラート家という一家族の“小さな物語”を興味深く観ることができた。

オスカルの目に映る人びと(大人たち)は、みな必死に生きている。オスカルが子どもから成長しないために、大人が相対化して見えるのが面白い。男女の性が強調されすぎている感もあるけれど…。また社会も相対化して見えるのも面白い。政治信条、国籍、宗教の違いによって争う人びと。オスカルが子どもであるがゆえに、大人社会に巻き込まれすぎずに距離を保っているのが面白い。特に、ナチ党の演説場面、オスカルが叩く太鼓のリズムに合わせて行進曲がワルツに変わる様が強く印象に残った。

1920年代に自由都市と呼ばれたダンツィヒは、アジール(聖域・避難所・無縁所・統治権力が及ばない地域)的に特殊なエリアだったのかもしれない。本作の主人公・少年オスカルはその象徴としてアジール的に描かれているように感じられた。

オスカルが肌身離さず持っているブリキの太鼓は、赤と白のツートンカラー。これはポーランドの国旗の色と同じだ。日本の国旗の色とも同じ。思えば私たちの国も明治開国まではアジール的な国だったのかもしれない。
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