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シベールの日曜日のbennoのレビュー・感想・評価

シベールの日曜日(1962年製作の映画)
4.6
戦争で記憶を失った青年と親に捨てられた無垢な少女の束の間の日々…。

アンリ・ドカエの素晴らしい映像がまるで水墨画のよう…画面にふたりが浮かび上がります…。

冒頭、インドシナ戦争の映像で戦闘機のパイロットだったピエール(ハーディ・クリューガー)…心に大きな傷を負い、記憶を失ってしまいます…。

そんな彼を献身的に支えるのは看護師でもある恋人マドレーヌ…彼は彼女と同棲…彼女の母性とも言える大人の愛情はとっても素敵です…。

ある日、ピエールは寄宿学校に入れられた12歳の少女フランソワーズ(パトリシア・ゴッジ)と出会います…後に彼はフランソワーズが親に捨てられたことを知り…親に成り変わり日曜日ごとに一緒に森で遊ぶように…。

共に孤独であり、純粋であったふたつの心は互いに救い合い距離を近づけます…

とにかく映像が見事…『死刑台のエレベーター』も素晴らしかったですが、その撮影監督でもあるアンリ・ドカエ…彼の作品も追いたいです…。

モノクロ作品ですが、眩ゆい色彩のイメージが出来るような感覚…。

靄の中の湖畔に生い茂る木々…
石を放り込んだ後に出来る幾重もの波紋…
そこに映し出されるピエールとフランソワーズ…
なんて純粋無垢な姿…
ふたりはそこを"私たちの家"と呼びます…。

« Voilà, nous sommes chez nous. On est entré dans le cercle. Vient! »
ほら、私たちのお家…輪の中(波紋)にあるわ、来て!

何とも叙情的…フランソワーズが放つ言葉は子供とは思えないような表現で幻想的な響きを醸し出します…アルビノーニの♬ アダージョの美しいけれど寂寥感のある音楽も幽玄の美を感じます…。

そのフランソワーズを演じるパトリシア・ゴッジの小悪魔的な愛くるしさ…白いファーの帽子がとっても似合っていて…大きな瞳は『ミツバチのささやき』のアナちゃんを彷彿とさせます…。



  〜〜〜⚠︎以下ネタバレ含みます⚠︎〜〜〜








クリスマスの夜….ピエールはフランソワーズのために盗んだクリスマスツリーを森の小屋に飾ります…そして彼女は自分の本名を書いたメモを小さな箱に入れてピエールにプレゼント…そこに書かれた名前は… « Cybèle »(シベール)…

しかし周りの大人達はそんなふたりの淡い関係を色眼鏡で見るように…遂にはピエールを変質者だと勘違いした警官に銃で撃たれてしまいます…。

警官に名前を聞かれたシベールは…
« J’ai plus de nom et je suis plus personne…à rien… »
もう名前なんかないの…誰でもなくなったの…私はもう何でもない…。

ピエールが死んだ瞬間…シベールの魂も死んでしまいました…。


観方によっては『ロリコン映画』と捉われることもあるようですが…決してそこに留まらず…私はとてもピュアな愛情を感じました…。


✎︎ YouTube (仏音声、英字幕)でご覧になれますෆ*
   
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