ぽち

フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白のぽちのレビュー・感想・評価

3.7
人類が直面する「戦争」と言う問題について、気持ちいいほど本質をついて、きれい事で誤魔化さずにストレートに現実を直視した見事なドキュメンタリー。

長ったらしい邦題と、勉強不足のためほとんど知らなかったマクナマラと、2003年と言うちょうどイラク戦争に突入した時期を考え、てっきりアメリカ万歳の士気高揚プロパガンダ映画かと思ったら、とんでもない。

マクナマラの独善的な教訓の押し付けのように見えるが、その11の彼独特の哲学の中には、見事に人間の本質をついている物が多く、ひたすらしゃべりまくる作品内容にもかかわらず、中だるみの無い引き締まった作品となっている。

本人は「戦争哲学」と呼んでいたが、実生活での教訓ととれるものも多い。

そして一番驚くのが、9番、11番。「In order to do good, you may have to engage in evil」と「You can't change human nature」。

善を行うために悪が必要となることを明言している勇気も凄いが、「人間の本質」により戦争は無くならないと言い切るのも凄い。

実はこの二つはみんな知っていることだと思う。でも、それを口に出して明言してしまうと、夢も希望も無くなるので、必死に知らないふりをしているだけ。
あと数千年は、人間は殺し合いをやめないし、正義と言う名のもと多くの人を殺していくのだと、あらためて目の前に突き付けられると絶望を感じる。

しかし、それを冷静に自分の中で理解して、絶望しながらも、戦争のルールを作るとか、正義のために死ぬ人数を最小限にするという、「冷たい計算」が出来るこの人は、単なるエリートではなく、一種の天才だったのだと確信した。



余談。
以前にも書いたのだが、しつこく書かせていただく。

1932年に二人の天才が戦争について手紙で議論する。
一人は物理学者アルバート・アインシュタイン。
相手は心理学者のシグムント・フロイト。

アインシュタインは
「いまだに戦争を無くせないのは、人間の心に問題があるのではないか?人間の心を特定の方向に導き、憎悪と破壊という心の病に冒されないようにすることはできるのか?」
とフロイトに質問する。

フロイトの答えは・・・
「人間から攻撃的な性質を取り除くなど、できそうにもない!」と明言するのである・・・・・・・

500万人余りが死亡する第二次世界大戦の7年前のことだ。
ぽち

ぽち