逃げるし恥だし役立たず

夕陽の群盗の逃げるし恥だし役立たずのレビュー・感想・評価

夕陽の群盗(1972年製作の映画)
5.0
南北戦争末期の1863年、徴兵を逃れた青年が出会った悪い仲間と中西部への道中を共にする姿を、ロードムービーとして織りなすニューシネマ・ウェスタン。『俺たちに明日はない』の脚本家ロバート・ベントンの監督デビュー作。
1863年、南北戦争下で荒廃したオハイオ州から徴兵を逃れて中西部に向かおうとした青年ドリュー・ディクソン(バリー・ブラウン)は、ミズリー州で駅馬車に乗りたいと願うが断わられ、其の上、同じような境遇で泥棒のジェイク・ラムジー(ジェフ・ブリッジズ)に襲われて所持品を奪われる。やがてジェイク・ラムジーと再会したドリュー・ディクソンの二人は格闘を繰り広げるが、ジェイク・ラムジーはドリュー・ディクソンの気骨が気に入って仲間に誘い、ドリュー・ディクソンはジェイク・ラムジーの悪童仲間と当てのない旅に同行することに決める。だが西部は彼らが考えていた程は甘くなく、一行は大悪党ビッグ・ジョー(デヴィッド・ハドルストン)一味と遭遇する…
古典的な西部劇とアメリカン・ニューシネマを組み合わせカウンターカルチャーを映す「アシッド・ウエスタン」と呼ばれる一作で、原題『Bad Company』からの邦題が非常に上手く、従来の西部劇では見られなかった若者達の青春群像劇を、ベトナム戦争を下敷きに描いた、ニューシネマ・ウェスタン・ロードムービーの隠れた名作である。
荒野を旅する中で純粋で無垢な少年達が目の当たりにする、戦争と弱肉強食の論理によって荒廃したアメリカの残酷な現実、そして新天地での夢と希望を打ち砕く理不尽な凶事、全編を通して常に弱者と善人が憂いに合い、勝者が正義と云う秩序なき価値の混乱、物語性を排した物語、映画的リアリティーを放棄したリアリティーが、此の映画にはある。頭を撃ち抜かれて横たえる年少者ブーグ・ブッキン(ジョシュア・ヒル・ルイス)、樹木に吊るされたジム・ボブ・ローガン(デイモン・コファー) とロニー・ローガン(ジョン・サヴェージ)、描写は殺伐としているが心情はよく表現されており、哀愁漂うピアノの音楽に、淡い光線に憂いを含んだトーンの南北戦争時代の美しい原風景の映像は、何故だか寂しく儚げで切ない余韻を残す、何と快いフィルムの触感、そして透徹したアイロニーとニヒリズム、ベトナム戦争に揺れる現代アメリカに真正面から切り込んだ、ロバート・ベントンの作家性が現れている。
何処か憂いを抱いたジェフ・ブリッジスの存在感も然る事ながら、対照的な青年役で善悪の何方も観せるバリー・ブラウンの表情が上手く、世渡り上手でズル賢いアウトローの悪童と教養があって信心深い良家の息子の二人の奇妙な友情も面白い。特にラストが最高にカッコよく、バリー・ブラウンが27歳で自死に至ったのは残念でならない。
『スタンド・バイ・ミー(1986年)』の様な何処か危うげで懐かしい雰囲気に、主人公や曲者揃いのキャラクターの一貫性、描き分けも秀逸であり、無駄なシーンも殆どなく、テンポよく纏められていて、最後まで飽きることなく観られる映画である。
ベトナム反戦の混沌の時代が生み出した、米国南北戦争下で儚く輝いた明日なき青春…NHK BSPなんかで多くの人に観てもらいたいのだが…