オーウェン

ダラスの熱い日のオーウェンのレビュー・感想・評価

ダラスの熱い日(1973年製作の映画)
4.5
この映画は、アメリカ現代史上最大の謎ジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件の真相に迫る政治スリラーの傑作だ。

この映画の脚本を書いたのは「ジョニーは戦場へ行った」を監督し、「スパルタカス」や「パピヨン」や「ローマの休日」の脚本家としても有名な信念と反骨の作家ダルトン・トランボ。

彼はジョン・F・ケネディ大統領の暗殺に関する「ウォーレン委員会報告」を虚構の虚偽に満ちたものとみなし、多くの反対証拠による反駁的なこの映画のシナリオを執筆したと語っています。

原作は二人のジャーナリストで、その内の一人マーク・レーンは、アメリカ合衆国第35代大統領ジョン・F・ケネディを狙撃して暗殺したといわれるH・オズワルドの弁護士。

監督は私が個人的に大好きなグレゴリー・ペック主演の「ニューマンという男」を演出したデイヴィッド・ミラー。

ダラスで起きたケネディ大統領暗殺事件は多くの謎を残したまま、世人の記憶から遠ざかっていたが、この映画の公開当時の1970年代前半の頃に、当時のニクソン大統領をめぐるウォーターゲート事件の黒い霧という大きな政治スキャンダルの中で、JFK暗殺はオズワルドの単独犯行ではなく、政治的な陰謀による謀殺ではなかったのかという疑惑が、この映画によって再燃したとの事です。

そして、当時のマスコミの反応として、テレビ・ラジオ局は映画の宣伝を拒否したというし、有名な経済紙ウォールストリート・ジャーナル紙は、"ケネディの死という厳粛な事実を、金もうけに利用しようとした悪趣味の映画"と酷評したと言われています。

当時のこのような映画興行上の拒絶反応という逆風にもかかわらず、アメリカでの興行成績は大ヒットとなり、背景としてウォーターゲート事件に絡む政治不信なくしては、このような予想外の一般大衆の反応はあり得なかっただろうと思われます。

この映画の原題の「Executive Action」は、テキサスの石油王(ウィル・ギア)、元CIA長官(名優バート・ランカスター)、元将官(ロバート・ライアン)などの右翼グループが、その既得権益を守るために行なった大統領暗殺行動を意味しています。

そして、このExecutive Actionを最終的にとらせたもの----それはリベラル的な政策を推し進め、その象徴ともいえるヴェトナム撤兵に関するJFKの演説であったと、この映画では推理し、解釈しています。

考えてみれば、ヨーロッパでの君主の暗殺は、常に反逆者の手によって計画的に行なわれてきたのに対して、アメリカでは、常に個人的な政治的狂信者の手にかかっているように思います。エイブラハム・リンカーン(暗殺)、ジェームス・ガーフィールド(暗殺)、ウィリアム・マキンレー(暗殺)、セオドア・ルーズベルト(負傷)、フランクリン・ルーズベルト(未遂)、ロナルド・レーガン(未遂)--------。

JFKの場合は、1963年11月22日午後1時30分、数秒間に3発の狙撃により致命傷を受けて死亡。
その1発が前方からのものであり、また、オズワルドが所持していた旧式銃では、数秒以内の連続発射は不可能である事を最も有力な証拠として、後方から二人、前方から一人のいわゆる三角同時射撃であったとこの映画では想定しています。

犯人の一人は偽のオズワルドであり、オズワルド本人はこの謀略の罠にかかった"囮"であると推理しています。
そして、この事件直後、オズワルドは正体不明のジャック・ルビーに消されてしまいます。

更にまた、この事件の重要証人とみられる18名が暗殺事件後、3年間の内に不可解な死に方をしており、その内の2名だけが自然死であるという不気味な事実も提示されています。

映画に挿入される実際のニュースは、白黒の粗い画面で、JFKの演説と行動を追いながら、次第に暗殺のクライマックスの地であるダラスへと近づいて行きます。

そして、それにカラーによるフィクション部分が並行するように絡みながら、暗殺現場へと集約されていく臨場感は息づまる程のスリルとサスペンスを醸し出し、この映画を一級の政治スリラーに仕立てていると思います。

「ジャッカルの日」(フレッド・ジンネマン監督)では、ドゴール大統領は暗殺されないものと判っていながらスリルを盛り上げていきましたが、この映画では、ケネディ大統領の死という事実に向かってサスペンスフルな緊張感を高めていって実に見事です。

脚本を担当したダルトン・トランボは、この映画の執筆の意図として、「私はケネディ暗殺の陰謀が具体的にどんなものか知らないし知ろうとも思わない。だが資料から浮かび上がった事実を、映画的サスペンスの中に定着させただけである」と語っていますが、この映画を観ていると、優れた映画手法のもつ強力な説得力にうたれます。

そして、それだけに実録的な映画によって事件の真相を推論する事の危険性もまた、覚えてしまいます。
オーウェン

オーウェン