アキラナウェイ

静かなる決闘のアキラナウェイのレビュー・感想・評価

静かなる決闘(1949年製作の映画)
3.5
黒澤明監督作品を少しずつ少しずつ、牛歩のペースで開拓中。

当時、特効薬がなく不治の病といわれた性病"梅毒"がテーマ。今では完治出来るものの、当時の描写からその恐ろしさが垣間見える。

野戦病院で中田という患者の手術中に、メスでうっかり手を切った傷口から梅毒に感染してしまった1人の医師、藤崎(三船敏郎)。帰国後も恋人の美佐緒を避け、全てをひた隠しにしたまま、病と戦いながら独身のまま生きていこうとするが—— 。

黒澤明×三船敏郎のタッグと言えば、「七人の侍」「隠し砦の三悪人」等の時代劇を想起するが、こちらは戦後間も無くの医療モノ。

三船敏郎はタイトルの如く、静かに耐え忍ぶ青年医師を演じており、どうも「七人の侍」の菊千代のような豪傑なキャラクターを期待していると、まるで真逆な人物像に少々肩透かしを喰らってしまった。

いや、もちろん三船敏郎なんだもの。
演技は抜群に良いのだが、彼の良さが活きるのは確実に菊千代のような男なんだよなぁ。

元ダンサーという経歴ながら、藤崎の病院で見習い看護師をしている峯岸るいという女性のキャラクターが、歯に衣着せぬ物言いで小気味良い。当初は藤崎に反発しながらも、彼の病にいち早く気付き、態度が軟化していく姿が印象的。

そして、黒澤明監督作品には欠かせないのが志村喬。藤崎の父親役。息子と一緒に煙草を吸おうとして、同時にライターを出したり、同時に煙草を突き出したりする、何気ないシーンが微笑ましい。

恐らく婚約同然の仲だと思われる恋人の美紗緒を頑なに遠ざけようとする藤崎と、急につれなくなった恋人の姿に戸惑うばかりの美紗緒。感染させてはいけない、子供を授かる事も出来ないという心配に加え、梅毒なんて口にしてしまうと、自分の素行も疑われるし、何より美紗緒の評判を落としかねないとも思ったんだろう。

"静かなる決闘"の本当の意味。

それは、心の内で拮抗する欲望と自制心。

黒澤明の名に恥じぬ良作だとは思うが、前述のように、もっと豪胆な物語の方が個人的には好み。