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タクシー・ブルースのgeminidoorsのレビュー・感想・評価

タクシー・ブルース(1990年製作の映画)
4.5
社会主義国家が激動の後に産み落とした謂わばもう一つの"タクシードライバー"。
然し本作側にはデ・ニーロ演じた主人公トラヴィスが前述作で最後に経験する脚本展開〜謂わゆる"断裂からの再生の芽吹きや提案"は無かった様な。覚えているのはむせび泣く管楽器のフリーキーな混沌共鳴ばかり。



昔、23区内の片隅、木造アパート1階東向き角部屋に暮らしていた際に、某レンタル店の陳列棚の片隅の良品発掘みたいなコーナーに在ったVHSで観た記憶。本作も又すっかり片隅に?忘れていたらしい。
忘れていた30年間位の間に、当時は今以上に少ない知識ながら"ソ連も変わったんだなぁ"等の驚きと共に、全編司るフリーJAZZの響きに或る感動を覚えた記憶。
なのに本作、部分部分の映像や或る動的な激しさはハッキリ思い出せても、ストーリーの詳細は年月のガスに霞んで彼方にある。

その長い年月の間に、なんと今のロシアは逆行しているかの…
そしてワタシ個人にしても彷徨い、2回の大移住と2回の転職大変更を経験したり。
子供も産まれ、その子は既に一人暮らしながら都会で働いている。我の長い頭髪の1/3は白く成り、髭どころか鼻毛にまで(笑)白髪が目立つ様に成ってしまった。
何も変わっていないのは…幾らシンプルを目指しても、描き終えた作品を司るものを形容したらば"confusion"な処か…


そう、本作の匂いを今の記憶なりに一言で表せば、謂わば"confusion"だろうか…
不図思う。
あんなに無茶して破天荒だった自分が未だ生きている。未だ前を見ようとしながら、後ろも気にしている。
普段は或るコントロールをして、喩えば〜
規則正しい食事をして
或る制約を守りながら必死に仕事をこなし
或る意味分かり易い音楽を聴いて
分かり易い記号や数字を選んで
今という時を暮らしている(生きている)
けれど…
本来の、自分の中なのか奥の方なのかは、コノ作品の化粧以外の骨や肉に似通っているんじゃないだろうか…?
永久に和解なき深く暗い亀裂が刻まれ、でもそれなりに明るさも楽しみも知っていて…
震える繊毛はびこるヒダと、いつしか固まった鉄塊が、常に表裏一体せめぎ合っていて…
いつにしても答えという明確なものは出ない。
色んな制限や納期があるから、已む無く"選択"しているだけかも知れない。
言い訳みたいな響きだな。
然し、"全ては途中"だ。
その果てに、"今現在があるだけ"だろう。



記憶の中で本作"タクシーブルース"には、最終的な"救い有るオチ"や分かり易い希望的"和解"は無かった筈。映像も荒く色彩も褪せて乏しいかも知れない。司るフリーJAZZの旋律や響きは、決して心地良いかと尋ねられたらYES!とは言わないだろう。
でも、機会あらばもう一度観てみたい。でも、何度も度々は観ないだろう。
きっと己の骨や肉やもっと奥の髄に似た匂いを、感じて刻まれたからかも知れない…


似た者同士が好き合う時もある。
でも全てが似て同じワケはない。
当初、似てる・同じと感じるのは恋であり、違いや差異を尊重し合い、持続や守ろうとする努力が愛?であるとしたならば〜
本当に似たものを避ける感じ…
失敗した経験ある御方なら解るでしょ?
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