◎デコとシヅ子の和製オペレッタ 志ん生落語盛り
1949年 新東宝 モノクロ 68分 デジタル上映
＊ホワイトノイズ、画面一部ハレーションあり
たぶん再見。
高峰秀子がぶっかけ飯を豪快にかっ喰らうシーンは覚えがあった。
世代を超えて愛唱される《銀座カンカン娘》をメインテーマにした和製ミュージカル。
ただ当時は、「シネ・オペレッタ」（映画による軽喜歌劇）と呼ばれていたらしい（＊6）。
【以下ネタバレ注意⚠️】
たぶん多くの人が誤解してると思うが、
《銀座カンカン娘》は笠置シヅ子の持ち歌ではない。
本作が8月16日に公開される以前の1949年4月にSP盤がビクターから発売されて50万枚の大ヒットを記録した、高峰秀子の持ち歌である。
なお、B面は、本作のラストで、高峰演ずる秋と結ばれ結婚式を挙げる武助役の灰田勝彦による《わが夢わが歌》。
本作のメインは、金欠に苦しむ画家志望の秋（高峰秀子 25歳）と歌手志望の春（笠置シヅ子 34歳）が映画エキストラ兼ミュージシャンの白井哲夫（岸井明 38歳）とトリオを組んで、キャバレーまわりの流しをして、踊りながら歌を聴かせる複数のシークエンス。
高峰秀子が俳優として演技の幅が驚異的に広いことは認識していたが、本作を観返して、歌手ないしミュージカルスターとしても一流であったことに、改めて驚くしかなかった。
歌唱の仕方も、いわゆるジャズ味のあるリズムに乗る流行歌調だけでなく、屋外にいる灰田勝彦との二階からのやり取りでは、《カルメン》や《オー・ソレ・ミオ》などをつないだオペラ（ないしオペレッタ）風の朗唱まで、かなり幅広い。
25歳のデコちゃんは、頬っぺたもプクプクで、とにかく可愛い。
相手役の灰田と並ぶと一目瞭然だが、あまり映えない灰田に対して、本作のデコちゃんは常に美しく輝いている。
本作、第一のメリットである。
そして、ブギの女王、笠置シヅ子。
まぁ、同じ日に観た『結婚三銃士』（本作の一つ前にレビュー）でもいじられていたが、彼女は決して美人ではない。
だが、ひとたび音楽が鳴り、ステージにあがると、歌唱ばかりでなく、彼女の一挙手一投足がスウィングし、湧き立つようなリズムを刻むのだ。
実に、観る音楽、観るジャズ、観るスウィングの権化だ。
本作では、主題歌《銀座カンカン娘》のほか、《ジャングル・ブギー》《ラッパと娘》などで笠置の至芸を堪能できる。
本作、二番目のメリットである。
実は、本作のストーリー自体、脚本そのものは、あまり大したことはない。
若い高峰、笠置、灰田らが、いっぱしの芸術論を戦わせたりするが、ほとんど中身のない空論だ。
ギャグも、スラップスティックというか、ドッタンバッタンの類がほとんど。
だから、作品本意に観たら、スコアは良くて 2.4 ぐらいしか与えられない。
ところが、高峰、笠置の主演二人の魅力に加えて、本作には、落語界の至宝、大御所中の大御所、古今亭志ん生師匠（59歳）が二人の家主の噺家「（桜井？）新笑」として登場する。
あまつさえ、録音遺産は多くとも、高座姿の映像が極めて少ない志ん生師の『疝気の虫』と故枝雀師匠の「すびばせんねぇ」で人口に膾炙している『替わり目』が聴けるというのだから、眼福ならぬ耳福、この上もない。
これが本作のメリットの第三である。
浦部粂子の噺家女房も、相変わらずシャキッとはしないが、師匠の特別出演に免じて許すとして、暖簾に寄贈主「落語協会」と入っているのも乙なところだ。
あと、意外な殊勲賞が、ワンコのポチ。
デコちゃんと追っかけっこ、隠れん坊したり、かなりのお利口さんだ。
最後は志ん生師匠にまで目を掛けられている。
本作、四番目のメリットはポチの名演としたい。
ということで、基礎点に、メリット四つ分を足して
2.4 + ( 0.3 × 4 ) = 3.6
の計算にて、3.6 をスコアとしたい。
《参考》
＊1 「銀座カンカン娘」で検索
ja.m.wikipedia.org/
＊2 銀座カンカン娘
1949年8月16日公開
moviewalker.jp/mv27343/
＊3 キネマ旬報WEB
銀座カンカン娘
www.kinejun.com/cinema/view/27526
＊4 東宝映画のロケ地を訪ねる
銀座カンカン娘
国立国会図書館（当時、現赤坂迎賓館）
ogikubo-toho.com/seitikankan.html
＊5 Cedarの今昔写真日記
映画もあった『銀座カンカン娘』の微小な鉄分。
2014/01/28 06:50
cedarben.blog.ss-blog.jp/2014-01-28
※新笑師匠の家は羽根木公園あたりらしい
＊6 ブギの女王から銀幕のスターへ
特集 笠置シヅ子
2024.3.30〜4.19 シネ・ヌーヴォ
www.cinenouveau.com/sakuhin/kasagishizuko2024/kasagishizuko2024.html
