うえびん

蛇イチゴのうえびんのレビュー・感想・評価

蛇イチゴ(2003年製作の映画)
4.0
愛しさと 切なさと 心苦しさと 心憎さと

2003年 西川美和監督作品

あり得そうで、あり得なさそうで、やっぱりあり得そうな、ある家族のデタラメな物語。

冒頭の生活感あふれる演出がいい。シャツを着る、トーストに何かを塗る、新聞を読む、親子で一緒に電車通勤する。忘れ物に気づく。明智家一人ひとりの相関が一気に分かってしまう。

宮迫博之(兄)、つみきみほ(妹)、平泉成(父)、誰の役もバッチリハマっているし、一つ屋根の下で共に暮らしてきた家族に見える。その誰よりも本作の中心に感じられたのは、大谷直子(母)だった。

義父を見つめる眼、夫を見つめる眼、娘を見つめる眼には、何か共通する狂気の光が見えた。それは、自分が正しいという欺瞞への反発心のようなものだったのだろうか。

正しいことを言う人は相手を追い詰める。追い詰められた相手は、正しいことを言う人の言行に不一致をみて、信頼感を失ってゆく。

一方、アウトローの息子に向ける眼差しには、無償の愛のようなものが感じられた。

「こんな家(うち)、ばっかみたい」とうそぶく母に、家族に対する愛しさと、家制度や嫁の立場に対する切なさと、母としての心強さなど、複雑な心情を感じ取った。

西川監督の師匠・是枝裕和監督は『そして父になる』で、親子の絆について共に過ごした時間か血縁かを問うた。西川監督は、理屈抜きで、母であり、妻であり、嫁であることを描いている。デビュー作から存分に発揮される脚本と演出力が心憎い。
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