てつこてつ

緑の光線のてつこてつのレビュー・感想・評価

緑の光線(1986年製作の映画)
3.5
1986年のヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞作品。

学生時代に初めてレンタルビデオでこの作品でエリック・ロメールというフランスの映像作家を知ったが、その即興芝居的な演出には(実際に事前にシナリオはなく、毎朝その日に撮るシーンの台詞が役者陣には渡されていたとのこと)、それまでハリウッドの綿密に計算され尽くした脚本ベースの作品群を観てきただけに、とても驚かされたもの。

当時はロメール作品を観て語るってのが、まだ青臭い学生たちの映画通を気取る人間の間では流行ったので、その後、幾つかの作品も鑑賞したが、やはり、今でこそ、その後に出て来たジャームッシュやホン・サンホといった監督群に似た手法は脈々と受け継がれてはいるものの、やはり、本家はひと味違う。

何十年かぶりにかつてNHKで放映され録画しっぱなしであったのを思い出し再鑑賞。

初見で感じた、理想のヴァカンスの過ごし方を求めてひたすら彷徨い愚痴を連ねるヒロイン像の自己中ぶりに辟易した点は、見直してみても変わらない。ただ、自分が若い頃に抱いていた、一人旅こそ最も自身の価値観を広げてくれる最高の旅行法・・という思考の枠に嵌めすぎて作品を捉えていたが、年齢も重ね、改めて見直してみると、このヒロインにとっては、フランス人にとっては最も楽しみな長いバカンスとは、誰か心から愛せる相手と時間を共有することを意味していること、また、その思いをクールに隠しきれずに、ついつい愚痴として言葉に出てしまう不器用なキャラクターであることに気付くと、見え方がかなり変わってくる。

冒頭に書いた通り、監督が狙った即興芝居だからこそ生まれたリアルな会話のやり取りが面白いのはもちろん、独特の長回し、ヒロインが一人で訪ね歩く村や海といったバカンス先の自然な光、風や木々や波の音、鳥の鳴き声なんかが、より作品を生き生きとさせている。作品のテーマに似つかわしくない不協和音のバイオリン演奏も独特。

日本人がフランスに旅行してもガイドブックなんかではあまり紹介されていない風向明媚な観光地が登場するのも魅力的。

作品のタイトルでもある「その瞬間を見ることが出来た物には幸運が訪れる」とされる“緑の光線”は、最近になって、あるテレビ番組でそういう太陽光の現象が希に起こるという事実を知った。

で、重要なラストシーン、改めて再鑑賞すると沈む夕日の空の色合いと、それを見つめるヒロインたちの背景の青い空があまりにも異なり、別撮りなのがバレバレなのも、あれだけ恋に対して慎重(臆病?)なヒロインがいとも簡単に一目惚れする終盤の展開も、多少の細かい部分など全く意に介さないロメール監督、あるいはフランス映画あるあるのご愛敬。

学生時代の気持ちで★評価を付けたら絶対に4以上は行っていたと思うが、この手の作風に自分が慣れすぎてしまった感があり、初めて見た時のフレッシュな感覚を忘れてしまった一抹の寂しさを胸に抱きつつのレビュー。
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