寝木裕和

夏の妹の寝木裕和のレビュー・感想・評価

夏の妹(1972年製作の映画)
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大島渚という人は、この時代を象徴する表現者… というか、この時代をリアルに知っている人には共鳴できる反骨精神があるというか。

この作品はある意味、それを象徴していると思う。

沖縄が日本に復帰する少し前に現地で撮られて、復帰後公開されたという、まさに時代の転換期を捉えた作品。

素直子、桃子先生、大村鶴男くん…
この三人がそれぞれ日本・アメリカ・沖縄の暗喩なのだろう。

「本当の兄さん、大村鶴男くんを、探すんだ!」
… どれだけ周りの人が彼が大村鶴男だと断言しても、その人は本物の大村鶴男ではないと言い張る素直子。

それが、どんな形であろうと、沖縄は沖縄であって、本物も、偽物も、ない。
勝手に、沖縄を変えようとしたのは後からのしかかってきた『他所からの力』であるわけで。

「昔、昔、へその下〜♪
助けた亀の、へその下〜♪ 」
素直子の父が唄う替え歌にも、いろいろ考えさせられるものがある。
この現代でも、基地問題… 内地の企業ベースの開発の問題… それに伴う環境破壊など… それらを見るにつけ、実に複雑な感情が湧きあがる。

ただ、後半の、表向き猥談に見せて沖縄〜アメリカ〜日本の関係を語るところは引っかかるものがあった。
とは言え、そこが冒頭に述べたこの時代なりの描写の仕方なのかなとも。

ラストで「もっと強くなって、本当の大村鶴男くんを見つけるんだ!」
と曰う素直子。
そこに、日本という国の「イノセントさ(無垢/無知)と狂気性の相反するものの同居」を示唆しているように感じて、思わず唸ってしまった。

武満徹の、メロウ&スウィートなテーマ曲もさることながら、登場人物それぞれの緊張感のある対話の折に挿入される実験的で不穏なサウンドも、この時代に合っていて良い。
寝木裕和

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