KnightsofOdessa

SAFEのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

SAFE(1995年製作の映画)
4.0
No.889[過酷な花粉症映画] 80点

VHS題は「ケミカル・シンドローム」。よく見ればヘインズ作品だった。

主人公キャロル・ホワイトは高級住宅街に暮らす専業主婦で、夫グレッグとその連れ子ローリーの三人で暮らし、家には家政婦までいる。昼間からエクササイズに精を出し、友人とダイエットの話に興じている。しかし、徐々に慢性的な倦怠感に悩まされるようになる。しかし、主治医はストレス性と断じ、精神科医はお手上げ状態。その間にも症状はどんどん悪化し、突然吐き始めたり発作で倒れて病院送りになったりしている。病名で語れない病気に医師もグレッグも首を傾げるばかりだ。

物語も後半になると、思いがけない方向に話が転がり始める。キャロルの症状は化学物質過敏症という病気に一致しており、同じ症状を持つ人々が田舎にコミュニティを作っているというのだ。早速行ってみることにする。しかし、そこは”自己嫌悪→免疫不全”という怪しい精神論を掲げる宗教じみた施設だったのだ。

広い空間にポツンと佇むキャロルを遠くから映した悪意ある映像の多いこと多いこと。これが”孤独”や”孤立”を指すならば、やはり前半でヘインズの言いたいことは”化学物質過敏症=多くの物質に囲まれていても満たされない心の具現化”なのではないか。一度気が付いてしまえば、一気に心を蝕んでいく点、あながち間違ってないかも。となれば、後半のコミュニティの話では、”心が満たされないのに物質の有無は関係ない”ともとれる。末恐ろしい話だ。

本作品に共感できない場合は、化学物質過敏症をより過酷な花粉症と捉えればいい。花粉症は、今となってはメジャーなアレルギーだが、黎明期には名前すら付いていなかっただろう。そして、花粉症の人はその季節になると花粉のない綺麗な部屋で暮らしたいと願うだろう。その点、全ての人間に通じる物語になっているのだろう。
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