りょう

八日目の蝉のりょうのレビュー・感想・評価

八日目の蝉(2011年製作の映画)
3.6
 新生児の“つれ去り”といえば、2006年に宮城県の病院で発生した誘拐事件を思いだします。その病院で自分の2人の子どもが数年前に生まれていたからです。ちょっとゾッとした記憶があります(被害者の赤ちゃんは数日で無事に保護されました)。
 この作品を10年前に観たときは、原作の雰囲気と感動をそのまま映像化したようなところが好印象でしたが、原作の記憶も薄れて、単純に映画として観てみると、ちょっと違和感があります。
 父親である自分の経験からすると、乳幼児を自宅で1人にして、両親がそろって外出することなんてありません。たとえ短時間で戻ってくるつもりでも、そこで自分にどんな出来事があるのかわからないからです。もし自分が事故にでも遭って自宅に戻れなかったら…、子どもの生命にかかわります。そんなあり得ない設定が物語のきっかけになっていますが、そこから現在と過去をフラッシュバックでつなぐ構成がうまいので、ちょっともったいないです。
 「誰が悪かったのか」を言うのは野暮ですが、ほぼ間違いなく恵理菜の父親です。不倫の相手を孕ませておきながら中絶を強要し、妻と離婚するばかりか妊娠までさせ…という典型的なクズ男ですが、社会的な制裁もわずかなようで、親子3人の家庭を悪びれもなく継続しています。
 現在の恵理菜の交際相手にも妻子がいて、それはそれで示唆的ですが、「好きかどうかもわからない」ような男と不倫することになった彼女の行動原理は曖昧です。
 それでも、この147分の長尺が許容されるのは、こういう役柄で発揮される永作博美さんのナチュラルな演技のおかげです。さらに、3歳~4歳の恵理菜(薫)を演じた渡邉このみさんがめちゃくちゃ可愛いくて、彼女がこの作品の雰囲気を支配している印象すらあります。この2人をずっと観ていたくなるし、小豆島のフェリーの乗船場で希和子が言う「その子はまだ、ご飯を食べていません」のセリフでは嗚咽が漏れます。
 それにしても、薫という名前では戸籍も健康保険証もないはずなのに、希和子は薫とどうやって生活していこうとしたのでしょうか。困窮と破綻しか想像できないので、彼女のやっていることも児童虐待です。大人の痴情のもつれで被害に遭うのは、いつも子どもたちばかり…。
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