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のんき大将のアー君のレビュー・感想・評価

のんき大将(1949年製作の映画)
4.3
画家ダリと共作して話題になった「アンダルシアの犬」で有名な映画監督ルイス・ブニュエルの初期作品が上映。このような機会はあまりないので、可能な限り観に行ければと思う。

昨年鑑賞した「昇天峠」は佳作ではあったが、一部のシュルレアリスティックな特殊効果は当時としては目を見張るものがあった。

ストーリーはシンプルで妻を亡くして自暴自棄になった大富豪のラミロが、仕事を放り投げて朝から酒を飲み、家族も無節制に浪費し、愛娘の婚約パーティも酔って現れパーティを台無しに。将来を心配した弟は立ち直らせるために家族で大芝居を打つことになるのだが‥。

「バカな大将、敵より怖い」この言葉が当てはまるかは微妙ではあるが、現代にも通じる格差批判による、ブニュエルらしい社会風刺とみることもできるだろう。それ以外にも後半のラミロから逆に騙していくあたりから、娘のロマンスと家族のハッピーエンドに向かうストーリーの進行が自然で無駄がなく見事であった。

今回は監督が脚本として絡んでいなかったのが功をなしたのか、良い意味でバランスがとれており隠れた名作である。

時折場内で笑いが起きていたが、森繁久彌の社長シリーズ、クレイジー・キャッツを始めとして、ビートたけしや志村けん等のお茶の間のコントのような世界が、喜劇としてすでに確立されていた事実(1949年公開)と時代を感じさせない普遍的な笑いに驚きを隠せなかった。

昨日今日と立て続けに著名な監督のリバイバルを鑑賞する事になったが、国柄の事情もあるだろうが、背景から作家としての人生経験が素直に反映されている。

これは度重ねていう事になるが、どこかの国のタレント事務所のように時の体制に媚びへつらう事なく、彼らはお上に対して徹底した反骨精神が作品に溢れ出ている事を忘れてはならない。

〈スペイン・メキシコ時代のブニュエル〉
[シネマヴェーラ渋谷 12:25〜]
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