まぬままおま

初恋のまぬままおまのレビュー・感想・評価

初恋(1997年製作の映画)
4.0
エリック・コット監督、ウォン・カーウァイ制作、クリストファー・ドイル撮影、金城武出演作品。

エリック・コットが映画製作における心境と過程を記録したドキュメンタリーとオムニバスドラマをリミックスした作品。

オムニバスドラマのタイトルは以下の通り。

“小鉄砲”
“五号公车上的骨医館(五号バス通りの整骨院)”
“一九七〇年 陳卓森跌打醫館的下午裡(1970年 昼下がりの整骨院)”
“AV大久保”
“一個一直等待他的愛人的男(ひたすら愛人を待ち続ける男)”
“2個同病相連的男子、在同一愛恋的天空下。(相哀れむ男二人ひとつ屋根の下で)”
“悪女回歸(悪女帰る)”
“ー個精神與ー個夢遊病初恋前的世界(精神病の男と夢遊病の少女の話)”
“李一平與趙美娜恋愛后的世界(ヤッピンとカレンの恋の後始末)”

メインドラマは“ー個精神與ー個夢遊病初恋前的世界(精神病の男と夢遊病の少女の話)”であり、恋後としての話が“李一平與趙美娜恋愛后的世界(ヤッピンとカレンの恋の後始末)”。それまでの作品はメインドラマをつくるまでの習作や「失敗」作とみるべきだろう。
またドキュメンタリーパートでは、監督がウォン・カーウァイの魔手から逃れられないと言っているように、映画製作の要求は高かったのだろう。監督の苦労に思いを馳せる。

クリストファー・ドイルのスタイリッシュな画と編集の奇抜さだけを楽しめばいいのかもしれない。
だけどなぜかメインドラマと恋後の物語に感動してしまうんだよな…

精神病を患っている清掃員の男と夢遊病の少女。清掃員が登場するのは、ゴミをかき集めて空き瓶や時計の工業製品でアイデンティティを確立する現代の都市人の表象のように思える。だけどそのアイデンティティの根源には虚しさしか残らない。それ故に彼と少女は精神病と夢遊病によって実存を都市から遊離させる。彼らは不安定な実存をカメラによって記録する。イメージのみが確かに彼らを存在させるのだ。
それは恋後でも同様で、カレンが飲むコーラ、かつての思い出があるカフェ、写真のみが彼らの実存を印づける。

この実存の不安定さや都市からの遊離はウォン・カーウァイ作品にも通底しているテーマであり、なかなか興味深い作品である。私は好きです!