YukiBan

94歳のゲイのYukiBanのレビュー・感想・評価

94歳のゲイ(2024年製作の映画)
4.5
ゲイの方からの手紙を93歳にして初めてもらったという。スマホもメールも当然やっていない。40年前の同性愛者開放のデモにいっても年長者だからと馴染めなかった。会社の飲み会でセクシーコンパニオンに興奮するふりをした。同性愛者だと気づかれないために会社や学校でも人と親しくなることを隠した。親にも当然内緒にしていた。

この方はどれだけ孤独だったんだろう。どれだけ男に好かれたかっただろう。

同性愛者を変態、精神異常だとアカデミックの世界でも言われていた戦後、バレたら下手したら殺されていたかもしれない戦中を生きてきた彼にとって、自分を曝け出すことは生死に関わることだったのだろう。だから一つ一つの運動の積み重なりがあってようやく寛容になりつつある現代においても、彼は好みの男性がいてもシャイになって言えても「男前やわぁ」なのだ。
連呼する「男前やわぁ」にほっこりしたが、その発言に至る彼の性格形成をした社会を考えたらなんとも不条理なところだろう。

彼の気持ちは詩作に向き、最も権威のある賞もとった。今も書き続けている。文学があって本当によかった。

この方は5畳にも満たない西成区の小部屋で独りベッドで寝起きしている。月12万の年金と配給で暮らしている。彼を3年間世話してくれたゲイのケアマネの方は急逝したが、新しいゲイ友ができた。急逝した方が発足したLGBTQの会に定期的に通っている。

彼は現在の生活は幸せだと言う。
一方、遺書の中で自分の人生は孤独だ、人に頼らないで生きてきたが最後に遺書という形で人に頼るのは恥ずかしいと言う。
もっと幸せになるためにもっと人を頼ってなんて決して言えない重さがあった。
YukiBan

YukiBan