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ラジオ下神白―あのとき あのまちの音楽から いまここへのFrapentaのレビュー・感想・評価

4.0
東工大のイベントで観た。
濱口竜介を一目みようと思っていたのだが、小森はるかも出席しており、そこでドキュメンタリー監督として有名らしいのを知った。その時に上映された映画だった。

正直内容はうろ覚えではあるが、東日本大震災の影響で団地に住む人々の自然体がよく撮られていたと感動した。そのなかでも、メタ的には当事者の外部に位置する監督(カメラを向けて撮影中)に向かって、気さくなおばあさんが話しかけてくるシーンが、個人的にはいい意味での違和感で、やけに脳に焼きついている。あのシーンはデッドプールじゃないけど、第四の壁を超えた語りかけのようで、決して他人事ではないと感じさせる凄みがある。ドキュメンタリーでは現地の住民にいかに入り込めるかが重要で、監督自身の見た目や、現地の人と一緒に食事をとることが近道だそう。弛まぬ努力があってこその信頼が垣間見えた素晴らしいシーンだと思う。

話は少し逸れるが、上映後のQ&Aで監督志望の方が「10年経った震災は次第に見放されていくだろうが、どのようなスタンスで撮っていくべきか」という質問をしており、監督は「10年という節目に対して背負いすぎない。いつ撮っても遅くはない」とのニュアンスの回答をしていた。個人的に風化の視点はなかった。たしかその質問者は震災を体験した当事者であり、焦燥感はなかなかに計り知れないものだと思う。どんな不運や不幸も、その身に起きたことはアイデンティティを侵食していくが、当事者にとってその筆頭である震災が人の記憶から抹消されていくのは耐えられないだろう。その人にとっては震災の喪失はアイデンティティの喪失を意味するのだから。

本監督がどのような出自を経てドキュメンタリー監督になったかはわからないが、それなりの信念があってこその作品なのは伝わった。機会があればまた違う監督作を観たい、と観た時に思えるくらいには見応えがあった。
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